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直後、私たちは顔を見合わせて校舎へと急いだ。渡り廊下を突っ切り、教室へ戻る。位置関係からして、私たちのクラスから発声されたはずだ。
職員室を素通りし、一分も経たないうちに教室後方のスライドドアまで到着する。真夏と目を合わせ、私は取手に指をかけた。
「わっ!?」
引き戸を開けたとき、私の髪がぶわっと舞い上がった。反対側の小窓が全開になっていて、そこから信じられないくらい強い風が流れてきていた。
窓際は一部の男子が陣取っていて、その間に女子が数名。残りの子たちは席のほうで傍観していた。立っている女子たちは皆スカートの端を抑えている。
「あ、委員長。ちょうどいいや、あいつらにいってやってくれない? 窓閉めようとしたら、ああして妨害してきたの」
遠山さんがすごい勢いで、私に向かって捲し立てた。他の女子たちも同調しているらしく、何度も頷いている。
「ちょ、ちょっと待ってよ。何があったのか教えてくれないと」
「どうもこうもないよ。換気のために小窓開けたら、思った以上に風が強くて。それで、何人かのスカートが勢いで捲れちゃったんだ」
北条さんが前に出てきて、うんざりした表情で窓際の男子たちを示した。全員、うちのクラスでもヤンチャしてるほうにあたる男の子たちである。
「それに味を占めたのかあいつら、あたしたちが閉めようとするのに止めようとするんだ。神風の到来だー、とかなんとかいって」
な、なんてしょうもない嫌がらせ。男子って高校生でもこんなやつばっかりなの?
私が顔を引きつらせていると、問題児代表の萩原がにやにや笑みを浮かべながら、手を振り払った。
「あー、委員長さ。悪いけどそこどいてくれない? 依宮に神風が当たらないじゃん」
このデリカシー皆無な発言に、私の手は自然と握り拳になっていた。甲に血管が浮き出るのがわかる。二重の意味で、許せない。
私は努めて、はっきり聞こえるようにノンデリ男子へ言い放った。
「なにそれ。真夏のことなんだと思ってるの。それに、私たちはあんたたちの玩具じゃないし。そっちこそ、さっさとどきなさいよ」
私の声に反応して、傍観していた生徒の中から賛同してくれる子がいた。前に事件現場で出くわした、早坂さんだ。
「委員長の言ってることが正しい。いい加減にしなよ、萩原」
彼女の鶴の一声が呼び水となり、女子たちは一斉に反抗を始めた。クラスのまとめ役を買っている早坂さんを味方につけた恩恵は凄まじく、あっという間に男子を責める体制が完成した。
萩原はというと、日和見主義を決めていた男子たちを無理やり招集して対抗している。巻き込まれた側の彼らにはちょっと可哀想だけど、こっちはこっちで譲れないものがある。
友人を侮辱されたうえに、見せ物みたいな扱いまでされてるんだ。黙っていられるわけがない。
「おい、流石に悪ノリが過ぎるって」
事態を見かねた一部の男子が、暴走する萩原を止めにかかった。どっちかというと真面目寄りな子たちが多い。
でも、耳を傾けてみると、だいたいは真夏を含めた女子への心証を気にかけているのが大半だった。現金だなあ、とは思うけれどこの状況下では有難い。
萩原たちが四方八方から苦言を浴びせられていた、そのとき。小窓から吹き荒れていた謎の風が、ぴたりと止んだ。
がらりと教室前方の引き戸が開かれて、ひょこっと入ってきた真夏が、近くにいた男の子に声をかけた。
あれ? 真夏、いつの間に教室から抜け出したんだろう。
「ねえねえ、段ボール運ぶの手伝ってくれる? 私ひとりだと、ちょっと重くて」
指名されたのは、騒動に参加していなかった鶴巻くん。クラスの中だとちょっと孤立気味の、典型的な地味系男子である。
彼は話しかけてきた相手が真夏だとわかると、持っていた文庫本をそっと机に伏せた。そして自分の周囲に誰もいないことを確認し、遠慮がちに頷いた。
「えと……僕でいいなら」
真夏の顔がぱっと明るくなった。ついさっきまで落ち込んでたとは、とても思えない。
「うん、ありがと。生徒会室の前までお願いね」
照れくさそうに頬をかく鶴巻くん。それを見た一部の男子が、ここぞとばかりに彼女のもとへ急行する。しかし、北条さんの一喝が決め手となり、野次馬男子はまたたく間に沈黙した。
真夏は教室を出る際、皆に向かってひらひらと手を振った。そして私のほうを振り向き、静かに片目を瞑った。




