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双魂ナインテイル  作者: 幽猫
第一章 残火共鳴

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幕間 真夏の放課後

 個人的に少し物足りないと感じたので、いくつかショート上げます。

 集会がお開きになったあと、私はいつもの寄り道コースで帰路についた。

 駅前のスターバックスでは、私はもう常連扱いになっているので、顔馴染みの店員さんとは「いつもの」でだいたい通じる。でも、今日はちょっとだけ、気分が違った。

 カウンターの前に立つと、店員のお姉さんはにこやかにオーダーを訊いた。


「いらっしゃいませ。本日も、キャラメルマキアートおひとつでよろしいでしょうか」


「ううん、今日はイートイン。季節限フラペチーノで。あとフルーツタルトもひとつ」


 お姉さんが意外、という顔になった。いつもテイクアウトしてたから、気持ちはわからなくもない。


「かしこまりました。では、お会計はこちらに」


 私は財布から五千円札を取り出して、お姉さんに手渡した。中身が少し心許ないけど、今回の報告書が受理されれば懐は温まるはず。

 お姉さんからお釣りを貰い、レシートを半分に折ってフリーポケットに挟んだ。


「ありがとうございます。ご用意が出来ましたら、店内放送でお呼び致します。お好きな席でお待ちください」


「うん、ありがとう」


 私は比較的空いているほうの隅の席に腰を下ろし、スカートを整えてから制鞄を壁際に立てかけた。

 スマートフォンを取り出し、ソシャゲに勤しむふりをしながら、私の中でややご機嫌斜めになっているタマに語りかけた。


「タマ、本物のガシャドクロってどれくらい強いの?」


 一拍の間を挟み、タマの声が私の頭に響く。


(今のわたしより少し下ってところだな。尾が本物の手にあったとしたら、まず勝てなかった)


 二本目の尾を持ったことで、タマの妖力は前より遥かに増えている。それよりやや下回るくらいなら、たしかに全滅しててもおかしくはない。


「そんなに? ガシャドクロって、怨念の集合体みたいなやつじゃなかった?」


(正確には、戦いで死んでいった人間たちの、無念の塊だ。道半ばで尽きた強い思念が、惹かれあって形になるんだ)


 なるほど、と私は納得した。単純に強い怨念が集まるなら、そりゃ手強い。


(そもそも、あれは単体の怨霊が変異してたからな。成り立ちからして全く違う。そこで、気づくべきだった)


 私の中のタマが、悔しそうに唇を結んだ。


「でもさ、タマ。ガシャドクロのこと、私に伝えてなかったのはなんで? 大抵のことは、いつも教えてくれるのに」


(……教えなかったんじゃない。知らなかったんだ)


「……え?」


(二本目の尾を取り戻したとき、わたしの知らない景色が浮かんできた。まるで、初めから知っていたみたいにな。たぶん、わたしに欠けているのは力だけじゃなくて、記憶もなんだろう」

 

 私は思わず、大きな声を出しかけた。

 尾は、タマの失った記憶。

 尾を得るためにかけられた時間が、そのまま宿ってるんだとしたら。ガシャドクロの知見は、取り返した尾が持っていたことになる。


「……タマはさ、残りの尾を集めたいの? もとの九尾に戻りたいとか?」


(……わからない)


 タマが九尾の尾の化身だということを、私は弥生ちゃんや剛よりずっと以前から知っていた。ある日、タマが自分から密かに打ち明けてくれた、大きな秘密だ。

 タマが視線を落とす姿が、頭に浮かんだ。いつも元気よくぴんと張った耳が、お辞儀をしているみたいに倒れている。


(……知らない記憶が増えるのに、怖くないわけじゃない。でも、九尾の尾はわたしと同じ存在。いわば、わたしの分け御霊だ。出来るなら、取り戻したい)


「……そっか」


 私はプレイ中のゲームを切り上げ、スマホをスリープモードにした。背もたれに寄りかかり、目を閉じる。


「いいんじゃない? それでも。タマがやりたいことなんだから」


 しょんぼり垂れていた尻尾が、ぴくん、と動いた。


「真夏……」


 私はスマホを鞄に仕舞い、机の上に上半身を伏せた。

 店内のお客さんはもう、かなり少なくなってきていた。


「そういえば、本当久々だったよね。狐火使ったの。いつ振りだっけ」


 極彩火輪の技は、まだ数えるほどしか使っていない。焔玉や火舞羅と比べて桁外れの威力だけど、なくても霊体を倒すには困らないことのほうが多かった。

 でも、私はあの技が好きだった。タマが初めて見せてくれた炎だ。


(さあな。あれを使わせるようなやつは、なかなか出て来ないからな)


「たしかに」


 私はタマと顔を見合わせて、小さく笑った。

 そのとき、私のレシートに記載された番号が呼び出された。私は、夜を彩る火花を思い浮かべながら、席を立った。


 


 


 




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