幕間 真夏の放課後
個人的に少し物足りないと感じたので、いくつかショート上げます。
集会がお開きになったあと、私はいつもの寄り道コースで帰路についた。
駅前のスターバックスでは、私はもう常連扱いになっているので、顔馴染みの店員さんとは「いつもの」でだいたい通じる。でも、今日はちょっとだけ、気分が違った。
カウンターの前に立つと、店員のお姉さんはにこやかにオーダーを訊いた。
「いらっしゃいませ。本日も、キャラメルマキアートおひとつでよろしいでしょうか」
「ううん、今日はイートイン。季節限フラペチーノで。あとフルーツタルトもひとつ」
お姉さんが意外、という顔になった。いつもテイクアウトしてたから、気持ちはわからなくもない。
「かしこまりました。では、お会計はこちらに」
私は財布から五千円札を取り出して、お姉さんに手渡した。中身が少し心許ないけど、今回の報告書が受理されれば懐は温まるはず。
お姉さんからお釣りを貰い、レシートを半分に折ってフリーポケットに挟んだ。
「ありがとうございます。ご用意が出来ましたら、店内放送でお呼び致します。お好きな席でお待ちください」
「うん、ありがとう」
私は比較的空いているほうの隅の席に腰を下ろし、スカートを整えてから制鞄を壁際に立てかけた。
スマートフォンを取り出し、ソシャゲに勤しむふりをしながら、私の中でややご機嫌斜めになっているタマに語りかけた。
「タマ、本物のガシャドクロってどれくらい強いの?」
一拍の間を挟み、タマの声が私の頭に響く。
(今のわたしより少し下ってところだな。尾が本物の手にあったとしたら、まず勝てなかった)
二本目の尾を持ったことで、タマの妖力は前より遥かに増えている。それよりやや下回るくらいなら、たしかに全滅しててもおかしくはない。
「そんなに? ガシャドクロって、怨念の集合体みたいなやつじゃなかった?」
(正確には、戦いで死んでいった人間たちの、無念の塊だ。道半ばで尽きた強い思念が、惹かれあって形になるんだ)
なるほど、と私は納得した。単純に強い怨念が集まるなら、そりゃ手強い。
(そもそも、あれは単体の怨霊が変異してたからな。成り立ちからして全く違う。そこで、気づくべきだった)
私の中のタマが、悔しそうに唇を結んだ。
「でもさ、タマ。ガシャドクロのこと、私に伝えてなかったのはなんで? 大抵のことは、いつも教えてくれるのに」
(……教えなかったんじゃない。知らなかったんだ)
「……え?」
(二本目の尾を取り戻したとき、わたしの知らない景色が浮かんできた。まるで、初めから知っていたみたいにな。たぶん、わたしに欠けているのは力だけじゃなくて、記憶もなんだろう」
私は思わず、大きな声を出しかけた。
尾は、タマの失った記憶。
尾を得るためにかけられた時間が、そのまま宿ってるんだとしたら。ガシャドクロの知見は、取り返した尾が持っていたことになる。
「……タマはさ、残りの尾を集めたいの? もとの九尾に戻りたいとか?」
(……わからない)
タマが九尾の尾の化身だということを、私は弥生ちゃんや剛よりずっと以前から知っていた。ある日、タマが自分から密かに打ち明けてくれた、大きな秘密だ。
タマが視線を落とす姿が、頭に浮かんだ。いつも元気よくぴんと張った耳が、お辞儀をしているみたいに倒れている。
(……知らない記憶が増えるのに、怖くないわけじゃない。でも、九尾の尾はわたしと同じ存在。いわば、わたしの分け御霊だ。出来るなら、取り戻したい)
「……そっか」
私はプレイ中のゲームを切り上げ、スマホをスリープモードにした。背もたれに寄りかかり、目を閉じる。
「いいんじゃない? それでも。タマがやりたいことなんだから」
しょんぼり垂れていた尻尾が、ぴくん、と動いた。
「真夏……」
私はスマホを鞄に仕舞い、机の上に上半身を伏せた。
店内のお客さんはもう、かなり少なくなってきていた。
「そういえば、本当久々だったよね。狐火使ったの。いつ振りだっけ」
極彩火輪の技は、まだ数えるほどしか使っていない。焔玉や火舞羅と比べて桁外れの威力だけど、なくても霊体を倒すには困らないことのほうが多かった。
でも、私はあの技が好きだった。タマが初めて見せてくれた炎だ。
(さあな。あれを使わせるようなやつは、なかなか出て来ないからな)
「たしかに」
私はタマと顔を見合わせて、小さく笑った。
そのとき、私のレシートに記載された番号が呼び出された。私は、夜を彩る火花を思い浮かべながら、席を立った。




