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って、あれ? なんで玉梓の姿が私に見えてるんだろう。
その疑問はすぐに解消された。当然、犯人は背後に立っているゆるふわ娘だ。
「タマの妖魔領域を展開したからね。前と同じ、この部屋全体に」
「えっ!? でも、霊力は……」
「ふふっ。じつは今ね、弥生ちゃんに霊力のプレゼントしてたんだ」
あ、だからハグしてたのか。
前は目隠しされたから全然気づかなかった。どういう基準なのかわからないけど、結構アバウトなのかも。
「……末恐ろしいな。依宮の身体を介してならともかく、自らの意思だけで領域を形成するとは。だが、妖力のほうはもつのか?」
「あんな馬鹿みたいな範囲に作らなければな。この程度なら自分だけで補完できる」
玉梓は部屋をくるりと見回し、壁際にあったソファーに小さな身体を預けた。それと同時に真夏が私の背から離れ、席に戻った。
「それで、玉梓。あの巨大骸骨について、お前の見解は?」
本郷先輩の質問に、玉梓は目を伏せた。少しの間、彼女は黙っていたものの、真夏の「タマ」という呼び掛けに、ようやく唇が動いた。
「答えから先にいうと、あれはガシャドクロじゃない。妖怪ですらない。ただの怨霊だ」
生徒会室に、戦慄が走った。
本郷先輩だけじゃなく、真夏までもが驚愕の表情を浮かべていた。狼狽えながらも、先輩が聞き返す。
「……あり得ない。妖魔領域を展開できるような強力な個体が、ただの怨霊だと。だとしたら、あの強さはいったい……」
「簡単だ。あれはわたしの尾を取り込んで、ガシャドクロに近い姿に変異してたんだ。だから、貧弱な浮遊霊みたいな存在でも、領域を展開できるだけの力を得た」
「尾……九尾の?」
私の呟きに、玉梓がこっくりと頷いた。
「たしかに、わたしは九尾の狐だ。でも、正確にいうなら少し違う。九尾じゃない。九尾の尾だ」
「……どういう意味だ?」
本郷先輩が腕を組み上げる。その眉間には、深い皺が寄っていた。
「そのままだよ。おまえたちのいう九尾の狐は、もういないんだ」
息を継いだ玉梓が、躊躇うように首を振った。胸に手を当て、絞るように言葉を紡ぐ。
「わたしは、その残り火」
玉梓はゆっくりと目を伏せた。まるで、見たくないものから目を背けているようだった。
「九本ある尾のうちの一本だった。昨日まではな」
玉梓はソファから降りて、ゆっくりと息を吐いた。いつの間か、生徒会室は暖房が効いた部屋よりも暑くなっていた。
その発生源は、すぐにわかった。玉梓の背後に、巨大な尻尾が現れたからだ。
「これがわたしの本当の尾だ。今は二本。このうちのひとつが、あの骸骨もどきに使われていた」
「使われていた、だと?」
「尾は妖狐の力の証なんだ。持ち主はその恩恵を受け、飛躍的に力を伸ばすことができる。妖力は高まり、長い時をかけて培ってきた知恵が宿る」
片目を開き、玉梓は問いかけた。
「変だとは思わなかったのか? あんな片言しか喋れないくせに、戦術だけはわたしたちを出し抜くくらい、洗練されていたことに」
その問いかけを訊いた途端、私ははっと思い返した。
そうだ、あのときにあった違和感。
人間の思考まで計算した戦術と、実際のガシャドクロの印象が、どこかちぐはぐだった。
あれは、九尾の尾で手に入れた知性。
そう考えれば、すべてに辻褄が合う。
「あの青白い炎は、尾の妖力が漏れ出ていた証拠だ。身の丈に合わない力が、自分の器で受け止めきれずに、溢れてたんだ」
くしゃ、と本郷先輩が頭を抱えた。さっきまでとは違い、腑に落ちた顔だった。
「……なるほど。そういう理屈だったか」
「わたしも、最初はガシャドクロが尾を持っていると思ってた。でも、実際は違った。尾の力に振り回されているだけのただの怨霊が、好き勝手に暴れてただけだったんだ」
玉梓はそこで一旦言葉を切り、真夏のほうへ歩み寄った。今度は真夏の膝の上に座ると、身体を預け、寄りかかった。
「おまえたちは運が良かった。あれが本物のガシャドクロだったら、とっくにこの世からはいなくなってたとこだ」
私の背筋に、ひやりとしたものが走った。
ただの悪霊が、玉梓と張り合えるくらいに化けるような代物。もし、仮に持ち主が違えば、結果は全く違っていたかもしれない。
「……でも、タマ。あの骸骨はそんなに大したことないって、いってなかった?」
「調子に乗って、領域を広く張りすぎたんだ。それに、手下たちにも妖力を分けてたみたいだしな。出てきた時点で、かなり力を消耗してたんだ」
「あー、なるほど。それなら、火舞羅の浄化力を耐え切ったことも納得。タマと同じ妖力が、私の霊力と溶け合って、威力が落ちちゃったんだ」
「そうだ。火舞羅の技で倒し切れなかったのは、相手が強かったからじゃない。力の反発さえなければ、一発で仕留められた」
真夏に頭を撫でられながら、玉梓は唇を尖らせた。椅子の下に垂れた尻尾が、小刻みに揺れている。
「まだ欠けている尾は残り七本。これらを全部集め切って、わたしはようやく本物の九尾だ。おまえたちと同じように、まだまだ未完成なんだよ」
玉梓は私たちを、順番に見つめた。その表情は、とても穏やかな笑顔だった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ようやく作品を完結させることができて、作者がいちばん安堵しているところです。
この作品は、自分が好きな要素を詰め込んだ、いわば欲張りセットみたいなものなんですが、楽しんでいただけましたでしょうか。
もし、真夏や玉梓、弥生、剛の物語をもっと読みたい、と思っていただけたら、幸いです。
最初に述べた通り、続きを書くかはまだ未定です。なので……
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