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双魂ナインテイル  作者: 幽猫
第一章 残火共鳴

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12

 下顎骨が大きく開き、骨の巨体は動き始めた。地面を這うようにして、玉梓を目掛けて噛みつこうとしてくる。


「……タマっ!」


 真夏が呼びかけるより僅かに早く、玉梓の姿が再び消失した。耳と尾を取り戻した真夏が、迫る顎の側面に蹴りを放つ。

 ぎい、と骨が軋んだ。

 慣性でやや進行方向が逸れたものの、ガシャドクロに大きなダメージは見受けられない。


「硬っ……流石にこんなんじゃダメか」


 唇を舐め、背後に跳躍する真夏。ガシャドクロの眼窩から炎が溢れ出し、彼女の立っていた位置に降り注いだ。

 それを見た本郷先輩が目を細め、顎を撫でた。


「あの炎、遠距離でも攻撃が出来るのか。厄介だな……」

 

「先輩、あの……勝てますよね。真夏」


「流石に領域の主ともなると、いくら依宮でも楽勝というわけにはいかないな。発する言葉は拙いが、ここまでの立ち回りを見る限り、頭は回る」


 私は静かに頷いた。

 真夏も、玉梓も、本郷先輩も、見かけによらずいろんな一面がある。相手がカタコトだからって侮るのは絶対に違う。


「焔玉」


 真夏の手から火球が放たれた。右の指の第二関節、五本全てに命中する。指の骨の繋ぎ目が焼け落ち、ガシャドクロが大きくよろけた。


「おっ、浄化技効くかんじ?」


 体勢を崩したガシャドクロに、真夏はこの機を逃さず一気に距離を詰めた。再び眼窩から青白い炎が無造作に放たれたものの、角度がないため当たらない。

 彼女は手を祈るように合わせ、ガシャドクロの手の甲に飛び乗った。残った左手で、はたき落とそうとする骨の巨人。

 真夏は、待ってましたとばかりに左手の指を踏み台に跳躍した。


「火舞羅」


 真夏の手の中に、炎の矢が出現する。

 親指、人差し指、中指の三本に沿うように、矢尻が形成された。ガシャドクロの眼窩目掛け、矢を放つ。

 空気を引き裂き、甲高い音を立てながら、火矢は青白い炎と衝突した。

 刹那。火炎同士が混ざり合い、ガシャドクロの巨体は炎に包まれた。


「オオオ、オオ……」


 天を仰ぐガシャドクロの身体が、炎の中で溶けるように消えていく。胸部、腕、首が消失し、頭蓋だけの姿になった。

 それでもまだ、ガシャドクロは完全には朽ちていなかった。燃え盛る火勢の中心で、不気味な声をあげていた。


「なに……笑ってるの?」


 頭だけの状態で、顎を上下させている。

 猫のようなしなやかさで、華麗な着地を決めた真夏が、驚愕の表情で目を見開いた。


「マジ? 大抵の霊なら火舞羅の一発で充分なのに」


(腐っても、尾か)


 玉梓の声が私の頭に響く。霊子通信を再開したみたいだ。


「どうしよ、タマ。もう一回、撃ち込んでみる?」


(……いや、ちょうどいい。久しぶりにあれを使うか)


 頭の中で、玉梓が宣言した。


(いい機会だ。おまえらにも見せてやる。わたしの本当の炎を)


 真夏の周囲で、熱風が巻き起こった。上向きの風が、彼女の前髪をかきあげる。


(真夏、少しだけわたしに身体を貸せ)


「うん、いいよ。タマに任せる」


 真夏は深呼吸をひとつ挟み、右の手をかたく握り締めた。空気が歪み、輪郭がぼやける。季節外れの熱気に、私の額を汗が伝った。

 その目つきは、真夏のものじゃない。玉梓が本当に乗り移っているようだった。


「───狐火(きつねび)


 真夏は口元を緩め、囁くように言葉を紡いだ。

 右手を開くと、炎の柱が立ち昇る。炎の柱は意思を持つかのようにゆらゆらと揺らめいて、やがて一筋の帯に変化した。帯の両端が、互いを求め合うように結びつく。


「───極彩火輪(ごくさいかりん)


 真夏の手が、円になった炎を掴む。

 それは、形容するなら炎の輪。

 私はその姿に先日、期間限定フェスに追加されたばかりのキャラ、ナタタイシが手に持つ武具、乾坤圏(けんこんけん)を重ねていた。

 真夏は円環を手にしたまま、狂ったように笑い続けるガシャドクロを見据えた。

 突き出すように、円環を構える。


「他人の力で悦に浸って満足か。ずいぶんお粗末な器だな」


 それはガシャドクロへの言葉というより、また別の誰かへ向けているようだった。

 

「餞別代わりだ。わたしのとっておきをくれてやる。───最期は、綺麗に天へと還れ」


 真夏は大きく振りかぶり、炎の輪を投げた。

 横回転に放たれた円環は、空中で踊っているかのような不規則な軌道を描き、未だガシャドクロの眼窩に燻る、青白い炎に吸い込まれていった。

 その瞬間。


 ドンッ!!


 大きな爆発がガシャドクロを襲った。

 しかも一度だけじゃない。爆発は連鎖する。

 頭蓋は反動で大きく浮き上がり、より高く舞い上がっていった。

 歯切れのいい連続した炸裂音が鳴り止んだとき、ガシャドクロの姿は見えないほどの高さまで押し上げられた。

 私は、先輩と並んでその光景を見上げていた。

 そして、すっかり暗くなった空が静けさに包まれた、そのとき。

 一際大きな炸裂音と共に、黒一色のキャンバスが鮮やかに彩られた。それはまるで、真夏の夜空を彩る、打ち上げ花火のようだった。

 玉梓の声が、頭に響いた。鼻にかける彼女の姿が、脳裏に浮かんだ。


(ふん、弱すぎ)

 

 











 


 

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