↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双魂ナインテイル  作者: 幽猫
第一章 残火共鳴

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/39

11

 口ではいったものの、身体は気持ちに追いついてはくれない。事実、階段を降りるのに何度も足を滑らせかけ、その度に真夏に支えてもらう有様だった。

 

「……怖い?」


「ぜんっぜん」


 痩せ我慢だった。

 でも、口にしないと身体から力が抜けてしまいそうで、私は何度も自分に言い聞かせた。


(戻るなら、今のうちだからな)


 玉梓の声が悪魔の誘惑に聞こえた。そうしてしまえば、どんなに楽になれるだろう。

 でも、自分で決めた以上、曲げたくなかった。


「……大丈夫」


 私の震える手に、真夏が自分の手を重ねた。

 秋の半ば。彼女の手は少しひんやりとしていた。それなのに、不思議なくらい温かかった。


「たとえ、どんな霊が相手でも、私が弥生ちゃんには手出しさせないから」


 真夏は私の顔をしっかり見据え、微笑んだ。その表情は、いつもの彼女が見せる、優しい笑顔。

 私は不思議と、自分が落ち着いていくのがわかった。なんだか魔法使いみたいだ。


「真夏……」


(それ、わたしのおかげってこと、忘れるなよ)


「もちろん。頼りにしてるね、タマ」


(……ふん)


 私は真夏と顔を合わせ、思わず笑ってしまった。

 玄関口で外履きのローファーに履き替え、私たちが向かったのはグラウンドだった。

 そこでは頬に擦り傷を負った本郷先輩が待っていた。


「……無事だったか、塚貝」


 先輩は顔を合わせるなり、謝罪の言葉を口にした。悔しさで口元を歪ませている。


「本当にすまない。俺の判断ミスだ。依宮が術者を倒すまで、おまえの側にいるべきだった。まさかあんなブラフを仕掛けてくるとは……」


「ブラフ、ですか?」


(自らを囮として使ったんだ。わたしたちが到着する直前、わざとまた気配を消した。目的は戦力の分断、といったところだろうな)


「なんで、そんなこと……」


「弥生ちゃんの霊力を美味しくいただくためだよ。この学校で、私たちより霊力が高い人はいない。だったらその中で弱そうなのから狙うのは、理にかなってるよね」


 私は思わず、身を固めるように二の腕を抱きしめた。

 信じられない。霊にそんな知恵があるだなんて。


「……思い返せば、違和感はあった。倒した骨の霊体が、死体のようにその場に残っていたからな。通常なら、すぐに消失するはずなんだ」


「あ……!」


 その瞬間、私の脳に稲妻が走った。

 確かに、動かなくなったスケルトンはそのままの状態だった。玉梓が踏み台にして窓に上がったのも、お行儀が悪いな、くらいにしか思わなかった。あのどす黒いスライムもどきは、真夏の火矢であっさり消えていたのに。

 骨が残るのがあまりに自然で、疑いもしなかった。


「私も気づかなかった。多分、最初からそういう認識を利用した作戦だったんだろうね。まんまとハメられちゃった」


「おそらく、あの百足のような姿は倒された霊体が融合したものだろう。手下を矢継ぎ早に繰り出す霊はよくいるが、やられた後で再利用する霊は、俺も初めてだ」


「単純に厄介だよね。しかも、ちゃんとくっついたぶん、強くなってるし」


 先輩が頬に絆創膏を貼り付け、ほぐすように肩を引っ張った。


「唯一の救いは、これ以上の敵の追加はなさそうなことだな。これだけ頭の切れる相手だ。投入するならとっくにしているだろう」


(復活するうえに素材が無尽蔵じゃあ、理不尽もいいとこだからな。まあ、領域を流れる妖力を見る限り、そこまで大したやつじゃない)


「え、そうなの?」


「どうした、塚貝?」


 本郷先輩が訊いてきた。

 あ、玉梓の声って先輩には届いてないんだ。


「あー、弥生ちゃんは今、タマと霊子通信してるんだよ」


「霊子通信? ……なるほど、お前が渡した霊力を媒介にしたのか。それなら納得できる」


「これ、どういう原理なんですか? 急に聞こえるようになって……」


「その説明は後だ。妖狐の見立てを聞かせてくれ」


「大したやつじゃない、ってさ」


 そうか、と本郷先輩は真夏の返答を満足そうに頷いた。

 そのときだった。


 かた、かた、かた。


「骨が……ひとりでに……!」


 グラウンドの中心に、いくつもの骨が踊るように飛び込んできた。それらはまるでプラモデルをつくるように、規則正しく組み上がっていく。

 大きい。頭蓋の部分だけでも三メートルはありそうだった。頸椎、胸骨、肋骨と順番に形を成していく。

 両腕が形成されたとき、私はその場でへたり込んだ。

 骨の巨人が、その姿を現した。

 空洞になっている眼窩の奥に、青白い炎が視える。閉じられていた顎がゆっくりと開き、空に向かって咆哮した。


「まさか、餓者髑髏(ガシャドクロ)か!? しかし、あの炎は……」


「ストレートに骨の親玉だね。タマ、領域の主はあいつでいいの?」


 真夏の呼び掛けに応えるように、玉梓がその姿を現した。けれど、彼女は返答することなく、ゆっくりと巨大人骨に向かって足を向けた。


「チ、カラ……ヲヲヲ……!」


 ガシャドクロは掠れたような声を轟かせた。

 玉梓は気に入らないものを見るように、顔をしかめた。


「……なんだ、わたしが欲しいか。なら、もっとはっきり言ったらどうだ」


「ヨ……コ、セエ……」


 玉梓の顔に怒りが滲む。

 歯を食い縛り、かたく拳を握り締めた。身体中の毛が逆立っていき、燃え盛る眼窩の炎を見上げて、叫んだ。


「それはおまえのものじゃない。さっさと返せ!」


 




 

 

 










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。