第九話「夏休み」
会いたいと思う人がいる。
それは、幸せなことなのかもしれない。
## 第九話「夏休み」
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七月の終わり。
東京は相変わらず暑かった。
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昼休み。
休憩室のテーブルを囲みながら、
同期たちが話している。
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「夏休みどこ行く?」
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「実家かな」
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「旅行!」
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「俺は寝る」
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笑い声が広がる。
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社会人になって初めての夏。
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しょうまはペットボトルの水を飲みながら、
ぼんやりその会話を聞いていた。
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「しょうまは?」
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突然話を振られる。
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「ん?」
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「夏休み」
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少し考える。
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「帰省かな」
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自然と口から出た。
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でも。
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頭に浮かんだのは実家ではなかった。
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たかとだった。
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大学時代。
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会いたいと思ったら会えた。
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車を出して。
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海へ行って。
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コンビニへ寄って。
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どうでもいい話をして。
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それだけだった。
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でも今は違う。
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会うためには予定を合わせる。
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飛行機を予約する。
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仕事を調整する。
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社会人になるというのは、
そういうことなのかもしれない。
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その日の夜。
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寮の部屋。
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エアコンの音だけが響いている。
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しょうまはスマホを開いた。
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航空券予約サイト。
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東京。
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沖縄。
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往復。
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数分後。
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予約完了。
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思ったより簡単だった。
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でも。
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会うことは昔より難しくなった。
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しょうまは少し笑う。
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大学時代には想像もしなかった。
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飛行機を予約しないと、
会えない距離になるなんて。
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ふとカレンダーを見る。
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八月。
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そして旧盆の日付。
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「今年も被らないな」
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小さく呟く。
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去年もそうだった。
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その前も。
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なぜか毎年少しだけずれる。
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もし旧盆と被っていたら。
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親戚が集まる家。
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仏壇に手を合わせて。
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夜はエイサーの音が聞こえて。
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もっと長く沖縄にいられたかもしれない。
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たかとも。
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もう少しだけ一緒に過ごせたかもしれない。
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そんなことを考える。
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でも。
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東京の仕事もある。
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新しい生活もある。
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だから、
ただ少しだけ残念だった。
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スマホを手に取る。
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たかとのトーク画面。
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『8月15日帰る』
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送信。
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数分後。
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通知が鳴る。
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『了解』
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たった二文字。
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昔からそうだった。
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たかとは必要以上に喋らない。
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でも。
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しょうまには分かる。
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少し嬉しい時の「了解」。
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面倒な時の「了解」。
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眠い時の「了解」。
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四年間で覚えた。
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だから今の「了解」にも、
少しだけ温度がある気がした。
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窓の外を見る。
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東京の夜景。
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入社した頃より、
少しだけ好きになった街。
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同期もいる。
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仕事もある。
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新しい生活もある。
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それでも。
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夏休みが待ち遠しい。
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理由は一つだった。
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沖縄へ帰るからじゃない。
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会いたい人に会えるからだ。
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夏まで、
あと二週間。
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その時間が長いのか短いのか。
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まだ分からなかった。




