第十話「帰りたくない理由」
会いたかった。
それだけなのに、
一日は思ったより短かった。
## 第十話「帰りたくない理由」
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八月。
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那覇空港。
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自動ドアが開いた瞬間、
しょうまは思わず立ち止まった。
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「あっつ」
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肌にまとわりつく湿気。
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生ぬるい風。
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遠くから聞こえる蝉の声。
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東京の暑さとは違う。
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「帰ってきたな」
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たかとが笑う。
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「蒸し暑すぎる」
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「沖縄だからな」
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「東京の方が涼しいまである」
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「それはない」
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車へ乗り込む。
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助手席へ座った瞬間、
しょうまは言った。
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「エアコン」
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「ついてる」
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「もっと」
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「もう強い」
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「足りん」
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「わがままだな」
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二人で笑う。
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車は空港を離れ、
海沿いの道へ出た。
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青い海。
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白い雲。
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夏の日差し。
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窓の外の景色が流れていく。
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「どこ行く?」
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たかとが聞く。
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しょうまは少し考えた。
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「今回は海沿いのモール行こう」
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「珍しいな」
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「東京じゃ海見ながら買い物とかできないし」
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「確かに」
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たかとは頷いた。
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しばらく走る。
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「相変わらず蒸し暑いよな」
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「昔よりマシじゃない?」
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「そうか?」
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「涼める場所増えたし」
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「あー」
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しょうまは笑う。
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「学生の頃とか暇だったら海かスーパーだった」
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「今も変わらんだろ」
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「否定できん」
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また笑った。
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モールへ着く。
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特に買うものはない。
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服を見て。
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雑貨を見て。
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本屋を見て。
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気づけば二時間近く歩いていた。
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「変わったな」
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たかとが言う。
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「何が」
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「服」
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しょうまは自分のシャツを見る。
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「そうか?」
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「前より気使ってる」
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「東京だから」
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「言い訳だな」
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「うるさい」
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たかとは笑う。
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でも本当だった。
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髪型も少し変わった。
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服も変わった。
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生活も変わった。
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知らない四か月がそこにあった。
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夕方。
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フードコートの窓際に座る。
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海が見えた。
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夕日が少しずつ海を染めている。
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「そろそろ帰るか」
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たかとが言う。
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しょうまは窓の外を見る。
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まだ夕方だった。
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帰りたくない。
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そう思った。
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でも、
理由がない。
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少し考えてから言う。
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「映画見る?」
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たかとが顔を上げる。
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「今から?」
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「うん」
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「珍しいな」
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しょうまはストローを回す。
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「館内にあるだろ」
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「理由になってない」
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「暇だから」
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「そうか」
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たかとは少し笑った。
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そして立ち上がる。
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「じゃあ見るか」
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その返事が、
しょうまは少し嬉しかった。
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映画が見たいわけじゃない。
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買い物がしたいわけでもない。
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ただ、
もう少しだけ。
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一緒にいたかった。
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その気持ちに、
まだ名前はなかった。




