第十一話「遠回り」
帰る理由はある。
でも、
帰りたくない理由もあった。
## 第十一話「遠回り」
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映画館を出る。
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外はすっかり暗くなっていた。
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「面白かったな」
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たかとが言う。
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「思ったよりな」
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しょうまも笑う。
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映画の内容より、
一緒にいた時間の方が印象に残っていた。
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駐車場へ向かう。
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車に乗り込む。
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エンジンがかかる。
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「じゃあ送るか」
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たかとの言葉に、
しょうまは窓の外を見た。
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まだ早い。
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そう思った。
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「なあ」
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「ん?」
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「北谷の方行かない?」
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たかとが笑う。
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「今から?」
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「夏休みだし」
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「便利な言葉だな」
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「だろ?」
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少しだけ考えてから、
たかとはウインカーを出した。
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「じゃあ遠回りするか」
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その一言が嬉しかった。
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車は北へ向かう。
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窓を少し開ける。
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夜風が入ってくる。
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昼間よりは涼しい。
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「相変わらず蒸し暑いな」
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「沖縄だからな」
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「便利な言葉だな」
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「お前が言うな」
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二人で笑った。
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しばらく走る。
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ふと、
しょうまが窓の外を指差した。
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「あれ?」
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「ん?」
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「前、あそこ違ったよな」
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たかとも前を見る。
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「あー」
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しばらく考える。
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「何だったっけ」
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「覚えてない」
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「お前な」
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二人で笑う。
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数秒後。
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「あれ、ホテルになってる」
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「マジか」
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「前なんだった?」
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「だから覚えてない」
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「じゃあ大した建物じゃなかったんだろ」
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「ひどいな」
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また笑った。
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車はそのまま走り続ける。
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夜の街が流れていく。
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新しい店。
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新しい建物。
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見慣れない景色。
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「沖縄って変わるよな」
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しょうまがぽつりと言った。
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「そうか?」
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「帰ってくるたび思う」
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たかとは少し考える。
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「俺は毎日いるから分からん」
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その言葉に、
しょうまは頷いた。
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確かにそうだった。
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離れたから見えるものもある。
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昔は気づかなかったこと。
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今だから分かること。
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それは街だけじゃなかった。
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隣を見る。
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運転するたかと。
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髪型も少し変わった。
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服も変わった。
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社会人になった顔をしていた。
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知らない時間が、
確かにそこにあった。
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「帰省するたびに思うんだけど」
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「何が」
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「沖縄って狭いな」
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「東京が広すぎるだけだろ」
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「それもそうか」
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しょうまは笑った。
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でも。
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東京では、
電車に乗っても知らない人ばかりだった。
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休日も一人。
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仕事も忙しい。
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そんな毎日の中で、
こうして何も考えずに話せる相手がいることが、
少しだけ特別に思えた。
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気づけば、
時計は二十一時半を回っていた。
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「そろそろ帰るか」
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たかとが言う。
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「だな」
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そう答えながらも、
少しだけ名残惜しかった。
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車は来た道を戻り始める。
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本当の帰り道。
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でも、
今日の遠回りは必要だった。
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もう少しだけ、
一緒にいたかったから。
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その気持ちに、
まだ名前はなかった。




