第十二話「いつもの店」
変わるものはたくさんある。
でも、
変わらないものもある。
## 第十二話「いつもの店」
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翌朝。
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九時過ぎ。
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エアコンの音で目が覚めた。
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沖縄の夏。
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カーテンの隙間から強い日差しが差し込んでいる。
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東京のアパートとは違う。
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実家の天井を見上げながら、
しょうまは少しだけ笑った。
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スマホを見る。
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通知が一件。
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たかとだった。
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『起きた?』
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『起きた』
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すぐに返信が来る。
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『昼どうする?』
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少し考えて、
しょうまは打ち込んだ。
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『久しぶりに沖縄そば食べたい』
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既読。
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数秒後。
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『昨日も食っただろ』
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『あれ空港のやつ』
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『同じだろ』
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『違う』
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『面倒くさいな』
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『褒め言葉?』
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『違う』
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しょうまは吹き出した。
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『大学の時よく行ってた店行こうぜ』
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『まだあるかな』
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『あるだろ』
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『潰れてたら笑う』
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『笑えん』
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待ち合わせは十二時。
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車に乗り込む。
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「おはよう」
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「もう昼だぞ」
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「夏休みだから」
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「便利な言葉だな」
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二人で笑った。
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車はゆっくり走り出す。
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「そういえば」
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しょうまが窓の外を見ながら言う。
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「今年も旧盆と被らなかったな」
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「あー」
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たかとが頷く。
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「被ったら面白かったのに」
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「何が」
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「友達みんな集まるじゃん」
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「確かに」
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「社会人になると全員揃わんし」
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「それはある」
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少しだけ静かになる。
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大学生の頃は、
会いたい時に会えた。
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でも今は違う。
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仕事。
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予定。
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住む場所。
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少しずつ変わっていく。
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昔よく通った沖縄そば屋へ着く。
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店の前を見る。
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「あった」
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思わず声が出た。
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「良かったな」
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たかとが笑う。
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「なんか安心した」
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店へ入る。
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出汁の香り。
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少し色褪せたメニュー。
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壁の写真。
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大学生の頃とほとんど変わっていない。
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「懐かしいな」
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「だな」
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席へ座る。
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「何にする?」
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たかとが聞く。
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しょうまはメニューを開く。
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数秒後、
閉じた。
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「ソーキそば」
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「即決か」
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「昔からこれ」
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「知ってる」
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その一言に、
しょうまは少しだけ笑った。
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しばらくして、
そばが運ばれてくる。
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湯気。
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出汁の香り。
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柔らかい肉。
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しょうまは一口食べた。
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「うま」
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「大げさだな」
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「東京で食えん」
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「食えるだろ」
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「違うんだよ」
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「便利な言葉だな」
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「お前覚えたな」
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また笑った。
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ふと窓の外を見る。
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向かいの建物に足場が組まれていた。
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「あれ?」
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「ん?」
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「向かい工事してない?」
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たかとも窓の外を見る。
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「あー」
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「本当だ」
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よく見ると、
建物の一部は取り壊されていた。
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「結構なくなってるな」
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「だな」
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「何できるんだろ」
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「どうせマンション」
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「夢がないな」
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「沖縄だぞ」
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「確かに」
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二人で笑う。
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しばらく工事現場を眺める。
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しょうまがぽつりと言った。
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「俺が次帰ってくる頃には出来てるかな」
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たかとは少し考える。
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「その頃にはまた東京だろ」
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「まぁな」
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しょうまは頷いた。
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当たり前のことだった。
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でも、
少しだけ胸が痛かった。
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工事は進む。
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街も変わる。
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時間も進む。
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何も変わらないままではいられない。
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それはきっと、
自分たちも同じだった。
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「ごちそうさま」
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店を出る。
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相変わらず蒸し暑い。
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「あっつ」
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しょうまが顔をしかめる。
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「沖縄だからな」
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「便利な言葉だな」
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「お前が始めたんだろ」
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また笑った。
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空は真っ青だった。
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夏休みは、
まだ続いている。




