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一歩、二歩、三歩。  作者: ともり。


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8/32

第八話「知らない毎日」

会えない時間は、

ただ寂しいだけだと思っていた。

本当に怖いのは、

その時間に新しい日々が積み重なっていくことだった。

## 第八話「知らない毎日」

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七月。


東京は蒸し暑かった。


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しょうまは会社の休憩室にいた。


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「しょうまくん、昼行く?」


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同期の声。


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「行きます」


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立ち上がる。


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社会人になって三か月。


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少しずつ慣れてきた。


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仕事も。


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人間関係も。


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東京の暮らしも。


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最初は怖かった満員電車も、


今では乗り換えアプリを見なくても移動できる。


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昼食を食べながら、


同期たちが笑っている。


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旅行の話。


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上司の話。


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休日の話。


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しょうまも自然に会話へ入っていた。


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ふと気づく。


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大学時代の自分なら、


こんな時間を過ごしていなかった。


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その夜。


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たかとへ電話をかける。


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「もしもし」


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『お疲れ』


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いつもの声。


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少し安心する。


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「今日さ」


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しょうまが話し始める。


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「同期と飯行って」


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『へぇ』


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「そのあとカフェ行って」


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『珍しいな』


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「だろ?」


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笑う。


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でも。


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話している途中で、


少しだけ違和感があった。


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この人たちを、


たかとは知らない。


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名前も。


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顔も。


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性格も。


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毎日一緒にいるのに。


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たかとは知らない。


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電話を切ったあと、


しょうまはしばらくスマホを見つめていた。


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その頃。


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沖縄。


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たかとも仕事を終えていた。


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「お疲れ様です!」


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後輩の声。


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春に入社した新人だった。


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少し前まで、


自分が教わる側だった。


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それなのに、


いつの間にか教える立場になっている。


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不思議だった。


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帰り道。


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コンビニへ寄る。


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後輩との会話を思い出す。


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今日の失敗。


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笑った出来事。


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以前なら、


真っ先にしょうまへ話していた。


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でも最近は、


話したいことが増えすぎている。


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全部は伝えられない。


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それは悪いことじゃない。


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でも少しだけ寂しい。


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夜。


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スマホを見る。


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しょうまとのトーク画面。


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大学時代は、


何十件も並んでいた。


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今は少し減った。


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忙しいから。


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仕方ない。


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分かっている。


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それでも。


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少しだけ。


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ほんの少しだけ。


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前より遠くなった気がした。


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嫌いになったわけじゃない。


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会いたくないわけでもない。


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むしろ逆だった。


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大切だからこそ、


変化に気づいてしまう。


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窓の外では、


夏の夜風が揺れていた。


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東京と沖縄。


---


二人の毎日は、


少しずつ広がっていた。


---


そしてその広がりは、


少しずつ、


二人だけの世界を小さくしていった。


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