第八話「知らない毎日」
会えない時間は、
ただ寂しいだけだと思っていた。
本当に怖いのは、
その時間に新しい日々が積み重なっていくことだった。
## 第八話「知らない毎日」
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七月。
東京は蒸し暑かった。
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しょうまは会社の休憩室にいた。
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「しょうまくん、昼行く?」
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同期の声。
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「行きます」
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立ち上がる。
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社会人になって三か月。
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少しずつ慣れてきた。
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仕事も。
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人間関係も。
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東京の暮らしも。
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最初は怖かった満員電車も、
今では乗り換えアプリを見なくても移動できる。
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昼食を食べながら、
同期たちが笑っている。
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旅行の話。
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上司の話。
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休日の話。
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しょうまも自然に会話へ入っていた。
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ふと気づく。
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大学時代の自分なら、
こんな時間を過ごしていなかった。
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その夜。
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たかとへ電話をかける。
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「もしもし」
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『お疲れ』
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いつもの声。
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少し安心する。
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「今日さ」
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しょうまが話し始める。
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「同期と飯行って」
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『へぇ』
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「そのあとカフェ行って」
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『珍しいな』
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「だろ?」
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笑う。
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でも。
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話している途中で、
少しだけ違和感があった。
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この人たちを、
たかとは知らない。
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名前も。
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顔も。
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性格も。
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毎日一緒にいるのに。
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たかとは知らない。
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電話を切ったあと、
しょうまはしばらくスマホを見つめていた。
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その頃。
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沖縄。
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たかとも仕事を終えていた。
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「お疲れ様です!」
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後輩の声。
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春に入社した新人だった。
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少し前まで、
自分が教わる側だった。
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それなのに、
いつの間にか教える立場になっている。
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不思議だった。
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帰り道。
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コンビニへ寄る。
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後輩との会話を思い出す。
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今日の失敗。
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笑った出来事。
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以前なら、
真っ先にしょうまへ話していた。
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でも最近は、
話したいことが増えすぎている。
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全部は伝えられない。
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それは悪いことじゃない。
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でも少しだけ寂しい。
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夜。
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スマホを見る。
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しょうまとのトーク画面。
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大学時代は、
何十件も並んでいた。
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今は少し減った。
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忙しいから。
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仕方ない。
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分かっている。
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それでも。
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少しだけ。
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ほんの少しだけ。
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前より遠くなった気がした。
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嫌いになったわけじゃない。
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会いたくないわけでもない。
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むしろ逆だった。
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大切だからこそ、
変化に気づいてしまう。
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窓の外では、
夏の夜風が揺れていた。
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東京と沖縄。
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二人の毎日は、
少しずつ広がっていた。
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そしてその広がりは、
少しずつ、
二人だけの世界を小さくしていった。




