第七話「会えない土曜日」
会えないことより、
会えないことに慣れてしまう方が、
少しだけ怖かった。
## 第七話「会えない土曜日」
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六月。
社会人になって二か月。
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久しぶりの土曜日だった。
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しょうまは昼過ぎに目を覚ました。
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カーテンの隙間から光が差し込んでいる。
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スマホを見る。
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11時47分。
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「寝たな……」
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大学時代なら、
こんな日はたかとから電話が来ていた。
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『まだ寝てる?』
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『昼だぞ』
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そんなメッセージ。
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でも今日は来ていない。
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しょうまはベッドから起き上がる。
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洗濯機を回す。
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掃除機をかける。
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スーパーへ行く。
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全部一人。
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当たり前のことなのに、
少しだけ違和感があった。
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大学時代。
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休日といえば、
たかとだった。
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ドライブ。
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カフェ。
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映画。
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海。
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特別なことは何もない。
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でも気づけば隣にいた。
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スーパーでカゴを持ちながら、
しょうまは立ち止まる。
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アイス売り場。
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「これ好きだったな」
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無意識に思う。
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たかとが。
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少し笑ってしまう。
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東京まで来て、
アイスで思い出すのか。
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自分でも呆れる。
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その頃。
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沖縄。
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たかとも休日だった。
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車を走らせていた。
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窓の外には海。
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見慣れた景色。
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信号待ち。
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助手席を見る。
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誰もいない。
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それだけなのに、
少し静かだった。
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コンビニへ寄る。
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コーヒーを買う。
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そして二つ取ろうとして、
手を止めた。
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「あ」
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小さく笑う。
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癖だった。
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大学時代から。
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しょうまの分。
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でも今日はいない。
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当たり前なのに。
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まだ少し慣れない。
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夜。
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東京。
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沖縄。
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離れた場所。
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ほぼ同じ時間。
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二人ともスマホを手に取った。
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『何してた?』
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しょうまが送る。
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数秒後。
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『ドライブ』
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返信が来る。
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『そっちは?』
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『買い物』
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短いやり取り。
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でも不思議だった。
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昔なら、
一緒にやっていた休日。
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今は別々に過ごしている。
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それなのに、
少しだけ繋がっている。
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電話がかかってくる。
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「もしもし」
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『お疲れ』
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聞き慣れた声。
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それだけで、
少し安心した。
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窓の外では、
東京の夜景が光っている。
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沖縄では、
波の音が聞こえていた。
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見ている景色は違う。
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過ごしている時間も違う。
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それでも、
今日という日を話したい相手は同じだった。
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社会人になって二か月。
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二人はまだ、
離れた距離の歩き方を知らなかった。




