第五話「はじめての東京」
新しい場所は、 人を変える。
でも、変わることは悪いことじゃない。
## 第五話「はじめての東京」
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東京駅は、人で溢れていた。
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「なんだこれ……」
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しょうまは思わず立ち止まる。
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平日の朝。
スーツ姿の人たちが、
流れるように歩いていく。
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速い。
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とにかく速い。
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キャリーケースを引きながら歩いているだけなのに、
自分だけ取り残されている気がした。
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大学時代。
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東京に憧れていた。
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大きな街。
新しい世界。
知らない人たち。
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でも実際に来てみると、
想像していたより少し怖かった。
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スマホを取り出す。
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たかとからメッセージが来ていた。
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『着いた?』
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それだけ。
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でも、
少し安心する。
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『着いた』
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返信する。
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『人多い』
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数秒後。
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『だろうな』
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短い返信。
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しょうまは笑った。
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沖縄なら、
人混みと言っても知れている。
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でもここは違う。
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駅を出ても。
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人。
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交差点も。
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人。
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コンビニも。
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人。
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どこを見ても人だった。
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それなのに。
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誰も自分を見ていない。
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その感覚が不思議だった。
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大学時代。
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どこへ行っても、
誰か知り合いがいた。
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でもここには誰もいない。
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少し自由で。
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少し寂しかった。
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会社の寮へ着く。
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荷物を置く。
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部屋は思っていたより狭い。
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「これが東京か」
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誰もいない部屋で呟く。
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返事はない。
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窓の外には隣のマンション。
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空も少し狭く見えた。
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その夜。
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ベッドに横になる。
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慣れない環境。
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慣れない音。
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慣れない匂い。
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眠れない。
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スマホを見る。
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時刻は23時。
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たかとへ電話をかけた。
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一回。
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二回。
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三回。
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「もしもし」
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聞き慣れた声。
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それだけで少し安心する。
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「お疲れ」
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「お疲れ」
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「どうだった?」
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しょうまは天井を見る。
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「人多かった」
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「だろうな」
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「あと部屋狭い」
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「だろうな」
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「全部知ってるじゃん」
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二人で笑った。
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ほんの数分前まで感じていた孤独が、
少しだけ薄くなる。
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それが嬉しかった。
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「なぁ」
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しょうまが言う。
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「俺さ」
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「ん?」
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「ジム続けると思う?」
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沈黙。
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そして。
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「無理」
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「ひど」
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「三日」
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「卒業しろよそれ」
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笑い声が重なる。
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その瞬間だけは、
距離なんて感じなかった。
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でも。
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電話を切ったあと。
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静かになった部屋の中で、
しょうまは少しだけ思う。
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明日から。
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本当に新しい人生が始まるんだな、と。
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窓の外には、
見慣れない東京の夜景が広がっていた。




