第四話「出発の日」
旅立ちは、何かを失うことじゃない。
だけど、何も変わらないわけでもない。
## 第四話「出発の日」
四月の朝。
空港へ向かう車の中は静かだった。
いつもなら、
しょうまが何か話している。
どうでもいいこと。
面白かった動画。
好きな音楽。
そんな話を延々としている。
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でも今日は違った。
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カーナビだけが淡々と喋っている。
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「次の信号を右です」
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たかとはハンドルを握ったまま前を見ていた。
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助手席には、
大きなキャリーケース。
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その隣にしょうま。
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東京へ行く。
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何ヶ月も前から決まっていたことなのに、
今日になって急に現実味を帯びてきた。
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「眠い」
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しょうまが言う。
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「昨日寝てないだろ」
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「興奮して」
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「子どもか」
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たかとは少し笑った。
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しょうまも笑う。
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そのやり取りに、
二人とも少し安心した。
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空港へ近づく。
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飛行機が見えた。
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白い機体が朝日に照らされている。
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「おお」
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しょうまが窓の外を見る。
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「いよいよだな」
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「だな」
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それ以上の言葉が出てこない。
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空港駐車場へ車を停める。
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キャリーケースを降ろす。
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春休み最後の日。
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旅行客。
新入社員らしい若者。
家族連れ。
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色々な人が歩いている。
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その中に、
二人もいた。
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チェックインまで少し時間があった。
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展望デッキへ行く。
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風が強い。
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飛行機の音が響く。
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「東京行ったら何するんだっけ」
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たかとが聞く。
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「英語」
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「まだ言ってる」
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「あとジム」
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「絶対続かない」
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「続くし」
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何度目か分からないやり取り。
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二人で笑った。
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その時間が心地良かった。
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少しだけ。
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本当に少しだけ。
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いつも通りに戻れた気がした。
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でも、
搭乗案内のアナウンスが流れる。
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現実は優しくない。
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時間は進む。
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「行くわ」
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しょうまが言う。
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たかとは頷いた。
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「うん」
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それだけ。
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本当は色々言いたかった。
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頑張れ。
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体調気をつけろ。
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困ったら連絡しろ。
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寂しい。
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行かないでほしい。
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でも、
どれも違う気がした。
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だから。
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「また会おう」
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そう言った。
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しょうまが笑う。
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「当たり前じゃん」
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その笑顔を見て、
少し安心する。
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しょうまは前へ進む。
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自分も前へ進く。
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そう決めていた。
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保安検査場の列へ並ぶしょうま。
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何度か振り返る。
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手を振る。
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たかとも手を振る。
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やがて姿が見えなくなる。
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それでも。
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不思議と、
終わりではない気がした。
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たかとはスマホを取り出す。
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画面には、
昨日撮った二人の写真。
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少し眺めてから閉じる。
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そして空を見上げた。
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飛行機が滑走路を走る。
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大きな音。
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ゆっくりと浮き上がる機体。
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その姿を見ながら、
たかとは小さく呟いた。
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「俺も頑張るか」
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その言葉は、
誰に聞かせるでもなく、
春の風の中へ消えていった。




