第三話「最後の春休み」
ずっと続くと思っていた時間ほど、終わるのが早い。
## 第三話「最後の春休み」
卒業式から一週間。
しょうまの部屋には、段ボールが積み上がっていた。
壁際。
ベッドの横。
玄関。
生活していた空間が、少しずつ荷物に飲み込まれていく。
---
「お前、ちゃんと片付けてるじゃん」
たかとが感心したように言った。
床に座りながらコンビニのコーヒーを飲んでいる。
---
「失礼だな」
「絶対ギリギリまでやらないタイプだと思ってた」
「俺を何だと思ってるんだ」
「しょうま」
「その答えになってない感じやめろ」
---
二人で笑った。
---
窓の外では、小学生が遊んでいる。
春休み。
暖かい風が部屋の中へ入ってくる。
---
しょうまは荷造りの手を止めた。
大学生活。
四年間。
長かったはずなのに。
振り返ると、一瞬だった気がする。
---
「なぁ」
たかとがコーヒーを置く。
---
「東京行くの、あと何日?」
---
「十日」
---
「もうそんなか」
---
しょうまも頷く。
---
「早いな」
---
言葉にすると、
本当に近づいてきた気がした。
---
東京。
---
ずっと行きたかった場所。
---
でも最近は、
楽しみと同じくらい、
少しだけ怖い。
---
「休日とか何するんだろ」
---
「知らん」
---
「友達できるかな」
---
「できるだろ」
---
「適当だな」
---
「しょうまだし」
---
たかとは当然みたいに言う。
---
その言葉に、
しょうまは少し安心する。
---
自分では不安でも。
たかとは昔から、
しょうまなら大丈夫だと思っている。
---
それが嬉しかった。
---
「たかとは?」
---
「ん?」
---
「仕事不安じゃない?」
---
たかとは少し考えた。
---
「不安だよ」
---
意外だった。
---
「そうなの?」
---
「そりゃそうだろ」
---
苦笑する。
---
「覚えること多そうだし」
---
「まあな」
---
「人間関係とか」
---
「それも」
---
たかとは窓の外を見る。
---
「でも」
---
「ん?」
---
「ちょっと楽しみ」
---
その言葉に、
今度はしょうまが驚く。
---
「珍しい」
---
「失礼だな」
---
「いや、なんか」
---
しょうまは笑った。
---
「変わったなって」
---
たかとは何も言わなかった。
---
ただ少しだけ笑った。
---
変わった。
---
そうなのかもしれない。
---
大学一年の頃なら、
こんなことは言わなかった。
---
新しい環境が怖かった。
---
失敗するのが嫌だった。
---
知らない場所が苦手だった。
---
でも今は違う。
---
少しだけ。
本当に少しだけ。
---
前に進みたいと思っている。
---
しょうまは段ボールへ目を向ける。
---
東京へ持っていく荷物。
---
置いていく荷物。
---
その中に、
四年間という時間も混ざっている気がした。
---
「なぁ」
---
しょうまが言う。
---
「社会人になってもさ」
---
「うん」
---
「たまには遊ぼうな」
---
たかとはすぐに頷く。
---
「当たり前だろ」
---
迷いもなく。
---
当然みたいに。
---
その返事が嬉しかった。
---
だけど、
同時に少し苦しかった。
---
未来なんて分からない。
---
会える回数も。
生活も。
仕事も。
---
全部変わる。
---
それでも、
今だけは信じたかった。
---
春の風がカーテンを揺らす。
---
その時の二人はまだ知らない。
---
会えなくなることよりも。
---
それぞれの人生が始まることの方が、
ずっと大きな出来事だということを。




