第二話「卒業の日」
未来は不安だった。
でも、
あの頃の僕たちは、
不安よりも期待の方が少しだけ大きかった。
## 第二話「卒業の日」
三月の空は、どこまでも青かった。
大学の正門前には、袴姿の学生たちが集まっている。
写真を撮る人。
泣いている人。
笑っている人。
四年間の終わりにしては、ずいぶん賑やかだった。
しょうまはスマホを構えながら笑う。
「たかと、もう一枚」
「さっき撮っただろ」
「卒業なんだからいいじゃん」
「今日だけで何枚撮る気だよ」
「百枚」
「アホ」
そう言いながらも、たかとは隣に立つ。
カシャ。
スマホのシャッター音が鳴った。
写真の中には、少し照れた顔のたかとと、満面の笑みを浮かべるしょうまが写っていた。
---
式が終わったあとも、二人はしばらく大学に残っていた。
グラウンド。
学生会館。
いつも講義を受けていた教室。
思い出話をしながら歩く。
春風が吹いていた。
「終わったな」
たかとが呟く。
しょうまも頷いた。
「意外とあっという間だった」
「一年の頃とか覚えてる?」
「覚えてる。たかと、人見知りだった」
「うるさい」
「今もだけど」
たかとは苦笑した。
---
校舎の裏にあるベンチに座る。
夕方の光が少しずつ柔らかくなっていた。
四月になれば、ここへ来ることもほとんどなくなる。
そう思うと不思議だった。
四年間、当たり前だった場所なのに。
---
「東京、楽しみ?」
たかとが聞く。
しょうまは少し考えた。
「楽しみ」
「即答だな」
「だって行ってみたかったし」
正直な気持ちだった。
テレビで見た街。
人が多くて。
電車が何本も走っていて。
夜でも明るい場所。
知らない世界。
怖さもある。
でも、それ以上に見てみたい。
---
「俺さ」
しょうまは空を見上げた。
「東京行ったら英語勉強したい」
「急だな」
「あとジム」
「絶対続かない」
「続くし」
「三日」
「失礼」
たかとは笑った。
しょうまもつられて笑う。
---
「たかとは?」
「ん?」
「やりたいことないの?」
たかとは少し考え込む。
風が吹く。
桜が一枚、足元へ落ちた。
---
「資格かな」
「おお」
「仕事覚えないとだし」
「真面目」
「普通だろ」
「たかとらしい」
---
少し沈黙が落ちる。
遠くで誰かが写真を撮っていた。
---
「あと」
たかとが小さく言う。
「一人旅とか」
しょうまは思わず振り向いた。
「え?」
「なにその顔」
「いや、びっくりして」
「失礼だな」
---
一人旅。
たかとの口から出るとは思わなかった。
---
「県外?」
「多分」
「飛行機?」
「多分」
「電車乗れる?」
「……多分」
---
二人で吹き出した。
---
しょうまは思った。
たかとは変わらない。
そう思っていた。
でも違うのかもしれない。
---
自分だけじゃない。
たかとも前へ進もうとしている。
---
春の風が吹く。
卒業証書の筒が、カランと小さな音を立てた。
---
「じゃあさ」
しょうまが言う。
「お互い頑張ろう」
---
「普通だな」
---
「いいじゃん」
---
「まあ、いいけど」
---
たかとは少し笑った。
---
その時の二人はまだ知らない。
---
会えなくなることよりも。
遠くなることよりも。
---
人生が少しずつ広がっていくことの方が、
ずっと大きな変化だということを。
---
そしてそれは、
寂しいだけの話ではないということを。




