表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一歩、二歩、三歩。  作者: ともり。


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/4

第一話「卒業まで、あと少し」

人は、

会えなくなるから離れるんじゃない。


少しずつ、

違う景色を見るようになる。


それでも、

会いたいと思ってしまう人がいる。

三月の夜は、少し湿っていた。


 海沿いの道路を走る車の窓を、しょうまは半分だけ開けている。潮の匂いと、コンビニの揚げ物みたいな油の匂いが混ざって、春が近づく夜の空気になっていた。


 助手席では、たかとがスマホを見ながら小さく欠伸をしている。


「眠い?」


 しょうまが聞くと、たかとは画面から目を離さないまま頷いた。


「ちょっと」


「寝ていいよ」


「しょうまの運転、たまに危ないから嫌」


「失礼だな」


 笑いながらハンドルを軽く叩く。


 国道沿いのヤシの木が、オレンジ色の街灯に照らされて流れていく。昼間は観光客で混む道も、深夜一時を過ぎると静かだった。


 大学四年の三月。


 卒業式まで、あと二週間。


 四年間、当たり前みたいに隣にいた時間が、もうすぐ終わる。


 それなのに、たかとは明日も普通に会えるような顔をしていた。


「腹減った」


「さっきラーメン食べたじゃん」


「ポテトは別」


「意味わからん」


「分かれ」


 眠そうな顔のまま言うから、しょうまは吹き出した。


 こういう時間が好きだった。


 目的もなく車を走らせて、コンビニ寄って、海を見て、眠くなったら帰るだけ。


 特別なことなんて何もない。


 でも、たかとといる時間だけは、ずっと続く気がしていた。


 赤信号で車を止める。


 しょうまは何気なく助手席を見る。


 コンビニの明かりが、たかとの横顔をぼんやり照らしていた。


 大学に入ってから、ずっと見てきた顔。


 優しくて、怒らなくて、頼まれると断れなくて、気づけば誰かの隣にいる人。


 しょうまは、そういうたかとが好きだった。


 多分、思っていたよりずっと前から。


「……なに」


「いや、眠そうだなって」


「普通に眠い」


「ごめん、連れ回した」


「別にいいよ」


 たかとは窓の外を見たまま言った。


「しょうまとこういうの、もう減るだろうし」


 しょうまの指先が、ハンドルの上で止まる。


 信号が青に変わった。


 後ろの車に軽くクラクションを鳴らされ、しょうまは慌ててアクセルを踏む。


「……まあ、そうだね」


 なるべく軽く返したつもりだった。


 でも、自分でも分かるくらい、少しだけ声が掠れていた。


 県外就職。


 東京。


 内定をもらった時は、素直に嬉しかった。


 人が多くて、電車が何本も走っていて、夜でも明るくて、知らないものが溢れている場所。


 ずっと、ここじゃないどこかへ行ってみたかった。


 でも最近は、その気持ちだけでは片付かなくなっている。


「たかと」


「ん?」


「遠距離って続くと思う?」


 たかとは少し黙った。


 窓の外を流れていく街灯を見ながら、小さく笑う。


「どうだろ」


「なにそれ」


「分かんないし」


「冷た」


「しょうまが聞いたんじゃん」


 二人の笑い声が、静かな車内に小さく広がる。


 でも、そのあと少しだけ沈黙が落ちた。


 ラジオから、知らないバンドの曲が流れている。


 しょうまは音量を少し下げた。


 たかとが窓に肘をついたまま、小さく言う。


「でも」


「ん?」


「続けたいとは思ってる」


 その言葉が、妙に静かに胸へ入ってくる。


 しょうまは前を向いたまま、小さく笑った。


「……俺も」


 本当は、

“続けたい”じゃ足りなかった。


 離れたくない。


 隣にいたい。


 ずっと、今みたいに笑っていたい。


 でも、言葉にした瞬間、終わりが近づく気がして怖かった。


 コンビニの駐車場に車を停める。


 深夜なのに、制服姿の高校生たちが笑いながらカップ麺を選んでいた。


「しょうま」


「ん?」


「ポテト奢って」


「はいはい」


 たかとは少し眠そうに笑った。


 しょうまは、その顔を見て少し安心する。


 まだ大丈夫。


 まだ隣にいる。


 そう思いたかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ