第三十二話「忙しい」
忘れたわけじゃない。
ただ、
毎日が過ぎていくだけだった。
## 第三十二話「忙しい」
---
十一月。
---
東京は少し寒くなっていた。
---
しょうまはコンビニを出る。
---
缶コーヒーを買う。
---
息が白い。
---
「寒っ」
---
思わず呟いた。
---
沖縄では考えられない。
---
そう思って、
少し笑う。
---
前なら、
たかとに送っていたかもしれない。
---
『東京寒い』
---
それだけ。
---
でも、
今日は送らなかった。
---
理由はない。
---
ただ、
送らなかった。
---
仕事が忙しかった。
---
たかとも忙しいはずだった。
---
お互い社会人だ。
---
そんな日もある。
---
スマホを見る。
---
最後のやり取りは、
二週間前。
---
『台風やばい』
---
『沖縄だろ』
---
『それな』
---
そこで終わっていた。
---
別に仲が悪くなったわけじゃない。
---
連絡しようと思えばできる。
---
でも、
しなくても生活は続いていく。
---
それが少し不思議だった。
---
帰り道。
---
駅へ向かう。
---
その途中。
---
ふと、
定食屋のことを思い出した。
---
大学の頃に通った店。
---
夏休みに行った店。
---
唐揚げ定食。
---
「腹減った」
---
思わず笑う。
---
そして、
気付く。
---
思い出しているのは、
定食屋じゃない。
---
その時に一緒にいた人だった。
---
スマホを取り出す。
---
少しだけ考える。
---
画面を開く。
---
たかとのトーク画面。
---
文字を打つ。
---
『唐揚げ定食食いたい』
---
数秒考える。
---
そして消す。
---
画面を閉じる。
---
「何やってんだ」
---
自分で笑った。
---
駅へ向かう。
---
人が多い。
---
東京の日常。
---
気づけば、
また一日が終わろうとしていた。
---
離れたわけじゃない。
---
でも、
あの夏みたいには会えなかった。
---
それだけだった。




