第二十六話「空港まで」
終わりが近づくほど、
人は普通に振る舞おうとする。
## 第二十六話「空港まで」
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エンジンがかかる。
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たかとは何も言わなかった。
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しょうまも何も言わなかった。
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車は静かに走り出す。
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空港へ向かう道。
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何度も通った道だった。
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でも、
今日は少しだけ違って見えた。
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「そういえばさ」
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しょうまが言う。
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「ん?」
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「お前、運転うまくなったな」
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たかとは笑った。
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「今さらか」
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「大学の頃ひどかっただろ」
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「失礼だな」
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「駐車やばかった」
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「言うな」
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二人で笑った。
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それでよかった。
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重い話はしない。
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寂しいとも言わない。
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その代わり、
どうでもいい話を続けた。
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「覚えてる?」
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「何が」
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「初めてドライブ行った時」
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「あー」
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たかとは少し笑った。
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「道間違えたやつ」
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「三回な」
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「二回だ」
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「三回だろ」
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「二回」
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「三回」
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また笑った。
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信号で止まる。
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空港の案内標識が見えた。
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あと少し。
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本当にあと少しだった。
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でも、
誰もその話をしない。
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「そういえば」
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たかとが言う。
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「ん?」
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「次来たら」
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しょうまは顔を向ける。
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「今度こそ卒業旅行行くか」
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一瞬だけ沈黙。
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そして、
しょうまは笑った。
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「今さら?」
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「今さら」
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「おっさんになってるぞ」
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「まだ二十代だ」
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「もう二十代だろ」
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いつか聞いた会話だった。
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二人で笑う。
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空港が見えてきた。
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約束なんて、
守られるか分からない。
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でも、
約束できる相手がいることは、
少し嬉しかった。
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車は空港へ入る。
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楽しかった夏休みの終わりが、
すぐそこまで来ていた。




