第二十五話「もう少しだけ」
帰る時間は決まっている。
だからこそ、少しでも先延ばしにしたくなった。
## 第二十五話「もう少しだけ」
---
「何時の便だっけ」
---
たかとが聞いた。
---
「夕方」
---
しょうまが答える。
---
「まだ大丈夫だな」
---
「まだ大丈夫」
---
二人とも笑った。
---
でも、
本当は分かっていた。
---
もう、
そんなに時間は残っていない。
---
車は海沿いの駐車場へ入る。
---
エンジンを切る。
---
窓を少し開ける。
---
風が入ってきた。
---
遠くで波の音が聞こえる。
---
「静かだな」
---
しょうまが言う。
---
「平日だからな」
---
たかとが答えた。
---
しばらく二人とも海を見ていた。
---
誰も話さない。
---
でも、
不思議と気まずくなかった。
---
昔からそうだった。
---
話していても楽しい。
---
話さなくても楽だった。
---
「そういえばさ」
---
たかとが言う。
---
「ん?」
---
「大学卒業した日覚えてる?」
---
しょうまは少し笑った。
---
「あー」
---
「覚えてる」
---
「あの日もこんな感じだったな」
---
「どんな感じ?」
---
「また会うだろって思ってた」
---
しょうまは黙った。
---
確かにそうだった。
---
また来週。
---
また今度。
---
そんな感覚だった。
---
でも、
社会人になって分かった。
---
また今度は、
思ったより遠い。
---
「だな」
---
しょうまは小さく答えた。
---
しばらくして、
スマホを見る。
---
時間が進んでいた。
---
何もしていないのに。
---
ただ話していただけなのに。
---
「そろそろか」
---
たかとが言った。
---
しょうまは頷く。
---
「そろそろだな」
---
でも、
二人ともすぐには動かなかった。
---
あと五分。
---
あと少しだけ。
---
そんな気持ちだった。
---
風が吹く。
---
夏の終わりみたいな匂いがした。




