第十四話「あの頃の話」
思い出話が増えた時、
人は少しだけ大人になったのかもしれない。
## 第十四話「あの頃の話」
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海の見える場所へ車を停める。
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夕方。
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空は少しずつオレンジ色になっていた。
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「意外と人いるな」
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しょうまが言う。
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「夏休みだから」
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「便利な言葉だな」
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「お前が始めたんだろ」
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二人で笑う。
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車から降りることはなかった。
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窓を少しだけ開ける。
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海風が入ってくる。
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昼間よりは涼しい。
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波の音が聞こえる。
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しばらく何も話さなかった。
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昔からそうだった。
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無理に話さなくても平気だった。
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「そういえば」
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たかとが言う。
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「ん?」
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「大学の時さ」
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「うん」
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「お前、講義によく遅刻してたよな」
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「してない」
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「してた」
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「数回だろ」
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「毎週」
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「盛るな」
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二人で笑う。
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「お前は真面目すぎた」
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しょうまが言う。
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「レポートも一週間前に終わらせてたし」
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「普通だろ」
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「普通じゃない」
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「そうか?」
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「そうだよ」
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また笑った。
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大学時代の話は尽きなかった。
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学園祭。
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飲み会。
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サークル。
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卒業旅行。
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どれも、
まだ最近のことのはずだった。
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「そういえばさ」
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「ん?」
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たかとが海を見たまま言う。
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「卒業してまだ一年も経ってないんだよな」
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しょうまは少し考えた。
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「あー」
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「言われてみれば」
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「もっと経ってる気がする」
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「それな」
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二人で笑う。
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大学を卒業したのは、
ついこの前のはずだった。
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卒業式。
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謝恩会。
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最後の講義。
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全部覚えている。
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でも。
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東京へ行った。
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働き始めた。
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朝早く起きるようになった。
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満員電車にも乗った。
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知らない街で生活を始めた。
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だからだろうか。
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大学生だった頃が、
ずっと前みたいに感じた。
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「まだ一年経ってないのに不思議だな」
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しょうまが言う。
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「社会人だからじゃない?」
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たかとは缶コーヒーを飲みながら答えた。
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「一年が早い」
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「それはある」
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二人で海を見る。
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波は相変わらずだった。
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変わったものもある。
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でも、
変わらないものもあった。
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しばらくして、
たかとがぽつりと言った。
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「次の帰省いつ?」
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しょうまは少し考える。
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「年末かな」
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「そっか」
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短い返事だった。
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でも、
なぜかその一言が心に残った。
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年末。
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まだ先だ。
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思ったより遠かった。
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夕日が少しずつ沈んでいく。
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楽しい時間ほど、
終わるのが早い。
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しょうまは海を見ながら思った。
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夏休みも、
きっと同じだろうと。




