第7話「鍬を持つ少…女?」
やっとヒロイン登場です
お待たせいたしました
振り返ると、そこには鍬を持った女性がニコニコ立っていた。
……いや、ニコニコ“しているように見える”だけだ。
顔は笑っているのに、雰囲気はまったく友好的ではない。
女性特有の、隠された怒りのオーラが背後から圧をかけてくる。
村長が酒瓶を抱えて震えていた理由が、今なら分かる。
「だ、誰が道具がショボいって?」
声は柔らかい。
だが、柔らかいのは声だけだ。
——あ、しまった。
即座にそう悟った。
これは、経営していた時に幾度も苦労した
“女性社員への対応マニュアル”を発動するしかない。
心掛けるのは三つ。
まず話を聞き同調すること。
次に話を聞き同調すること。
そして最後に話を聞き同調すること。
絶対に言い訳や反論はしてはいけない。
内部機関へのリークと同時に、SNSで拡散され、株価が下がる未来が見える。
「何か失礼なことを言ってしまったようで……
もしよければ、もう少し詳しくお話を聞かせていただけないでしょうか?」
私は丁寧に言葉を選んだ。
頭は下げない。下げると“負け”と判断されることがあるからだ。
女性は鍬を肩に担ぎ、少しだけ顎を上げた。
「……ふん。まあ、聞く姿勢は悪くないね」
近くで見ると、身長が高くスラッとしているが、
腕や肩にはしっかりと筋肉がついている。
「私はユイ。村の鍛冶士。
道具も建物も設備も、ぜーんぶ私が担当してる」
鍛冶士か、筋肉の理由も納得だ。
「病人の小屋も、ボアを捕まえたあの仕掛けも、即座に作るなんて…… あなた何者?」
ユイの笑顔が、ほんの少しだけ鋭くなる。
「昔、建物の修理をしていた経験があります。
そこから、様々な困りごとを持った方々に応えるうちに経験を積みました」
「ふーん。商人っぽいけど……
あいつらと違って、お金の匂いがしないのよねぇ。怪しい」
商人か。
この世界では困りごと解決といえば冒険者だが、存在しないのか?
「その商人さんは、何を見返りに?」
——はっ!!
そりゃそうだ、見返りなしでこんなボランティアしてたら怪しまれるわな。
「…っ、衣食住の保証です!
諸事情で別の場所から流れてきたため、ギブアンドテイクで過ごさせていただこうかと。
……ですよね、村長?」
村長はこくこくと頷いた。
「なるほど、怪しい。
おじいちゃん、この人借りていい?
トマさんとこの人をくっ付ければ、村が良くなりそうなのよねぇー」
ここで違和感を覚えた。
おじいちゃん?
この小さな集落で“おじいちゃん”と呼ぶということは……
——村長のお孫さん、か?
「怪しいと言いながらも信頼してくださるんですね」
「当たり前でしょ?
あの憎い領主に、いつまでも村を好き勝手させたくない。
使えるものはなんだって使う」
社員採用の時に、一つ心掛けていた点があった。
どんなに優秀な成績や実績を持っていても、
“その人が何をしたいのか、なぜしたいのか”
そこに着目することが、共に荒地を開拓できるかを見極める大事な点だった。
「最後に一つ教えてください。
ユイさんのやりたいことは?」
ユイは鍬の柄を軽く叩き、夕焼けを見上げた。
「決まってるでしょ。
——私が小さかった頃の村に戻したい。
好きだったみんなが笑って過ごすあの村に」
その言葉は、飾り気がなく、まっすぐだった。
私は思わず息を飲んだ。
「だから、あんたが本気で村を再建してくれるってなら……
少しくらいは手伝ってあげる」
そう言って、ユイは鍬を肩に担ぎ直した。
「ただし。
私の道具を“ショボい”なんて二度と言ったら……」
笑顔のまま、鍬の刃が夕日に光った。
「……その時は、覚悟してね?」
私は心の底から頷いた。
——この村、やっぱり怖い。
でも、、、ショボいなんて言った覚えないよ?




