第5話「畑の管理者」
畑を荒らす害獣のボアは、あっけなく罠にかかった。
今ごろは村人たちに解体されているだろう。
久々のお肉なのか、小さな女の子ですら嬉々としてナイフを持ちながらスキップしていた。
……この村、怖い。
解体は村人に任せ、私は気になったことを確認するため畑へ戻ってきた。
夕焼けのグラデーションが、
“人の住む領域”と“魔獣の住む森”をくっきり分けるように照らしている。
その境界線の手前で、鍬を振るう影があった。
——なんとも絵になる。
あの食糧庫に保管されていたジャガイモ。
大きさも湿度も揃っていて、保存状態も良かった。
肉が取れない中で、村人の健康や冬越しを考えた栽培計画まで立てている。
明らかに、知識と技術を持った人物がいる。
その人物に声をかけた。
「こんばんは。あなたが、この畑の管理を?」
鍬を止めた男がこちらを見た。
年の頃は四十前後。
手はゴツゴツしていて、長年土を触ってきた人間の手だ。
「……ああ。俺がトマだ。噂の旅人ってのは、お前か」
旅人。
まあ、そういう扱いになるよね。
私は手を差し出した。
「五十嵐鉄也です。よろしく」
トマは一瞬だけ私の手を見て、握り返してくれた。
握力が強い。職人の手だ。
だが次の瞬間、表情が険しくなる。
「……よそ者は帰れ。村のことに首を突っ込むな」
ストレートだな。
「そう言われると思ってました。でも、少しだけ聞いてください」
私は畑を見渡し、鑑定を使う。
鑑定。
土壌:やや痩せ気味(改善可能)
栄養バランス:窒素・リンは十分、カリウム不足
影響:根菜類は育つが、果菜類は育たない
状態:軽度の連作障害
道具:鍬(耐久★1/柄の寿命:残り1週間)
備品:水桶(底板の腐食進行/交換推奨)
——なるほど。
土壌の偏り、道具の限界、連作障害。
全部揃ってる。
「土、痩せてますね。カリウム不足で果菜類が育たない。
このままジャガイモばかり作ると、連作障害がもっと進みます」
トマの目は揺れなかった。
——ああ、知ってる顔だ。
「鍬も限界です。柄がもう一週間もちません。
水桶も底が腐ってきてる。交換しないと水漏れします」
それでもトマは淡々としていた。
「……全部、分かってる」
やっぱりか。
「だから言ってるんだ。よそ者は帰れ。
俺たちの問題は、俺たちで片付ける」
完全拒否。
私は肩をすくめた。
「分かりました。無理強いはしません。
でも、もし必要になったら声をかけてください。
畑は、放っておくと本当に壊れます」
トマは返事をしなかった。
ただ鍬を握り直し、再び土を耕し始めた。
その様子を、少し離れた場所から村人の一人がじっと見ていた。




