第13話「拒絶と本音」
兵士は、倒れた仲間のそばに膝をついたまま動かなかった。
ボアの足音も、領主の悲鳴も、すべて遠くへ消えた。
「……もし良ければ、村の再建を手伝ってくれませんか?」
私の言葉に、兵士はゆっくりと顔を上げた。
「すまない、それは無理だ」
短く、乾いた声だった。
兵士は淡々と言い、倒れた仲間の手をそっと組み直した。
その仕草だけは、妙に丁寧だった。
「理由を聞いてもいいですか?」
兵士は村を見渡し、最後に森を見た。
「村を守るには戦力が足りない」
「今日みたいな魔獣ならまだいい。だが……」
兵士は高台の方角を睨む。
「あの領主なら、必ずここを攻めてくる。
兵を増やして、怒り狂って、村ごと焼き払うだろう」
村長が秘蔵の酒瓶をより強く抱き込む。
「俺は、勝ち目のない戦いに身を投じる気はない」
トマさんが前に出る。
「勝ち目がないなんて、誰が決めた?」
私も続く。
「領主たちが攻めてくるのは、早くても二週間後です。
領内に戻り、貴族へ報告し、装備を整え、兵士を増員して……
すぐには来れません」
「その間に、この村の防衛力を上げるんです」
兵士は鼻で笑った。
「ばか言え。相手は領主だ。
手を出したら貴族が来る。もっと厄介なことになるぞ!」
トマさんが拳を握る。
「だからと言って戦わないわけにはいかない。
もう懲り懲りだ」
ユイも前に出る。
「もうこれ以上は、私たちも限界。
ボアにやられた畑も治さないといけないし……
どのみち死ぬなら戦うよ」
兵士は顔をしかめた。
「馬鹿どもにはついていけん」
そう言って村の外れへ歩き出す。
だが、数歩進んだところで足を止めた。
「……二週間、か」
私の言葉が引っかかったらしい。
「領主が戻って、報告して、兵を集めて……」
兵士は小さく舌打ちした。
「確かに、すぐには来れんだろう」
トマさんが腕を組む。
「だから、その間に強くなりゃいいだけだろ」
「簡単に言うな。村人出身のお前たちに何ができる」
「できるさ。やるしかねぇんだよ」
ユイが前に出る。
「畑も壊れたし、家も直さなきゃいけないし……。
でもね、何もしないでやられるのは嫌なの。
この村を焼かれるなんて、もっと嫌」
兵士は眉をひそめた。
「……村人が領主と戦う? 前代未聞だぞ」
「いえ、戦って勝つまでがセットです」
私は簡潔に案を伝える。
「この村は周囲を魔獣が潜む森で囲まれています。となると、入り口は必然的に正面からです」
「あの領主が罠を警戒して迂回しますか?
しないでしょうね。この村は終わったと思っていますから」
兵士はしばらく黙っていた。
風が吹き、森の葉が揺れる。
やがて、兵士は深く息を吐いた。
「……罠だけじゃ防ぎきれんだろ」
そう言って歩き出す。
だが、今度は村の外ではなく、村の中央へ向かっていた。
トマさんがニヤリと笑う。
「おい、どこ行くんだよ」
「……見ておくだけだ。お前らがどれだけ馬鹿か」
ユイが嬉しそうに笑った。
「見てるだけでも十分だよ!」
兵士は顔を背けた。
「……ごちゃごちゃ言ってないで早く作業を開始しろ。
二週間しかないぞ」
そこで私はふと気づいた。
「……そういえば、あなたの名前をまだ聞いてませんでした」
兵士は振り返らずに答えた。
「カイ。いちおう領主の兵士だ」




