096.竜の日
乾杯の音頭と同時に、イザベラがジョッキのビールを3口で飲み干す。凄まじい勢いだ。ビールってそんなに美味しいのか? まあ、オレはコーラがあればいいや。
1年以上飲んでいなかったその黒い炭酸飲料を口にすると、全身に電流が走る。
「くぅぅぅ・・・。やっぱなんだかんだ言ってコーラが一番美味い」
他にも美味しい炭酸飲料もあるが、原点にして頂点はコーラとサイダーだろう。異論は認めない。
団員が何を飲んでいるのかを確認すると、ミカエラとクーナさんはワイン、ではなくぶどうジュースを。ルカとクララはオレンジジュース。アンジェは一丁前にワインを飲んでいた。
あれ? アンジェって今18のはずだけど・・・。オーストラリアって18歳から飲酒していいのだろうか? ・・・見なかった事にしよう。アメリカは確か21歳からだったはず。日本より遅いのが印象的だったから覚えている。
「誰もコーラ飲んでないのか・・・」
なんかオレだけ仲間外れみたいだと思っていると、誰かが肩を組んで体重をかけてきた。
「坊や! 祝いの席なんだ! ジュースじゃなくて酒を飲みな!」
イ、イザベラ姉さん・・・。気が付いたらあっという間に酔っぱらってるし・・・。すきっ腹に酒を飲んだら酔うと聞いた事があるが、ひたすらにビールを飲みまくっているだろう。もの凄く酒臭い。
「イザベラ。オレは未成年だよ」
「はっ。良い子ちゃんかよ。アタシが16の時なんてクラブで飲みまくっていたっていうのに」
悪い事をさも当然のように言うが、正直イメージ通りだ。近所にいたら性癖を歪められる男の子がたくさんいそうだ。
「という訳で飲みな」
「いや、いいよ」
「ったく、戦っている時はあんなに堂々としているくせに。本当にち〇こついてんのかい」
ちょ、いきなり何言ってんだこの人!?
突然の爆弾発言に周りにいた人が全員こちらに視線を向ける。そんなのお構いなしに、イザベラが持っていたビールを口に含み、オレの後頭部を掴んで引き寄せた。
「んぐっ」
そしてキスしてきたかと思えば、ビールを口移しで流し込んできた。突如流れてきた苦い液体に驚き、飲み込んでしまう。
「ちょっとイザベラ! 何やってんのよ!?」
ミカエラが慌ててイザベラを引き剝がしてくれるが、既に口の中はビールの苦みに蹂躙されていた。
「何すんだよ!? ってか不っ味! こんなの飲んでんのかよ!」
急いでコーラで口の中の苦みを洗い流す。その姿を見てケラケラと笑うイザベラ。
「坊やには早かったか」
こんなに苦い飲み物なら飲めなくたって構わない。そもそもアルコールって人体にとって毒だったはず。摂取する必要なんてないものだ。
「ん? ・・・毒?」
今のオレには役に立たないと言われている因子が1つ宿っている。毒無効だ。アルコールが人体にとって毒であるならば、オレには効かない。つまり酔う事が出来ない。
という事はだ。オレが普通のビールを飲もうが、ノンアルコールビールを飲もうが変わらないという事。であれば、こんな苦い飲み物を無理して飲む必要などないのだ。
それにもしかしたら再生でもアルコールの分解が促進される可能性がある。どちらにせよ、オレの体にアルコールは効かない。
まあ、別にいいけどさ。困る訳じゃないし。
イザベラに対して怒っているミカエラを宥めていると、食欲をそそる匂いが鼻腔をくすぐる。肉が焼ける匂いだ。もしかしてお待ちかねのあれが焼けたのかと、匂いの元に視線を向ける。
鉄板で熱され、赤い肉が茶色へと変わっていく。涎を垂らしそうになるのを我慢していると、誰かに肩をポンと叩かれる。
「君が主役だ。一番最初に口にする権利がある」
ガブリエル大統領だ。彼はシェフから焼けたドラゴンハートを受け取り、オレに差し出す。
竜の心臓。果たしてそれは、口にした者に永遠の命を与えるのだろうか・・・。
差し出されたそれを受け取り、芯がまだ赤いレアな状態のそれを口に運ぶ。噛み締める度に、肉の味が口の中に広がる。軍事基地にいた時は、時々パサパサした脂ののっていないステーキを口にする事はあった。が、そんなもの肉とは言えない。本物の肉というものは、今オレの口の中にあるそれだ。
「旨い・・・。久々にちゃんとした肉を食べたな」
自然とそんな言葉が出てきた。正直不老不死とかいう話はどうでもいい。今はこの肉をひたすらに堪能したい。
「未来の息子にはもっと良い物を食べてもらわなくては。食生活を改善する様に申告しておくよ」
お、お義父さん・・・。一生ついていきます。
オレが美味しそうに頬張るのを見て、他の人達もドラゴン肉にありつく。瞬く間に、巨大なドラゴンハートとドラゴンステーキが皆の胃袋の中へと消えた。
肉がなくなった事で、パーティ会場内の空気も段々と落ち着いていき、そして幕を閉じる。
ミカエラとクーナさんと、母艦にあるオレの部屋で就寝の準備を始めていると、ある事に気が付く。まあ、なんだ・・・その・・・オレの息子が暴走している。
「ふふ。今日はいつにも増して元気だな」
クーナさんにその事をからかわれるが、自分でもそう思う。何故か落ち着く気配を見せない息子に疑問を抱くが、心当たりは1つしかない。ドラゴンの肉だ。
「あの肉・・・精力剤としての効果があるのか・・・」
多分、強壮剤の効果もあるだろう。次第に気分も高まってきたところで、ミカエラが満面の笑みでこちらに近づいてくる。
「じゃあケイジ。約束のあれ、忘れてないよね?」
約束? 一体何の事かと首を傾げると、ミカエラがサイコキネシスでオレの体をうつ伏せにして、どこからか持って来た手錠で両手足をベッドに縛り付ける。
「えっと・・・ミカエラさん?」
「お尻、触らせてくれる約束でしょ?」
ああ・・・確かにしたな。そんな約束。でも、1つだけ確かなのは、オレが思っていた触り方と確実に違うという事だ。
「いや、ちょっ! 待って! あ、アッー!」
この日あった事を、オレはすぐにでも忘れたかった。だが、この日が『竜の日』なんて記念日になってしまった為、嫌でも毎年思い出す羽目になるなんて思ってもいなかった。




