095.ドラゴンスレイヤー
ドラゴンは水中を這っている状態で、尻尾は完全に水の中。背中が半分程水から出ており、首は根から完全に水上にある。水に浸かっていた部位は、今や氷漬けとなっていた。
首から上が自由の為ブレスを警戒する必要はあるが、それでもカチカチ大作戦は成功と言えるだろう。
凍結したせいで身動きが取れず、こちらを睨みつけるドラゴン。その周囲の水もスケートリンクの様に綺麗に氷と化した。とはいえ川の水なので、解けるのも時間の問題だろう。
オレはドラゴンの眼前、その氷上に降り立つ。
「よお、どうだ? 冷凍肉になった気分は?」
こちらの言葉が分かるはずはないが、それでもオレを睨みつけてくる。いや、睨んでいるのはさっきからずっとか。
睨み合いをしている暇はない。時間が経てば氷が解け、有利になるのはヤツなのだから。
滑って転ばない様に注意しつつ、ドラゴンの背中に回り込む。ドラゴンがこちらに顔を向けるが、それよりも早く切断した翼の根に剣を突き立て、魔剣解放。体の奥深くまで刃が突き刺さる。
ギャオオオオオオオォッ――
二度目の悲鳴。そして本日二度目の鼓膜破裂。
「ああ! もう!」
叫んでみるが聞こえない。コイツ・・・今回は耳元で悲鳴をあげやがった。
眩暈に襲われ立っていられなくなるが、剣を強く握ってその巨大な背中から落ちない様に耐える。鱗は滑りやすいが、何とか鼓膜が再生するまで振り落とされる事はなかった。
「こんにゃろう・・・」
鼓膜が破れたのは初めてだったし、それを2回も経験させられた。耳から血が流れる事も、こんなに強い眩暈も感じたのも初めてだ。それに結構痛い。心臓を貫かれる程ではないけど。とにかくコイツには今、相当ムカついている。
まあ、何が言いたいかというと――
「ぶっ殺してやる!」
そういう訳だ。
剣をその背中から引き抜き、左手でフリージンググレネードを1つ取り出し、傷口に詰め込んでから起動する。すぐにその背から飛び退き尻尾がある位置に下がると、あの独特の起爆音が聞こえた。
バシュッ――
直後、ドラゴンの背中に霜が現れ、それは徐々に降下していく。内側から徐々に凍っている証拠だろう。
ドラゴンが短い悲鳴をあげ、体を温めようと自らに向かってブレスを吐こうとする。
『それ』をずっと待ち望んでいた。空かさず最後のフリージンググレネードを取り出し、その口に向かって全力で投げ込む。軽く時速500キロメートルを超える勢いで真っすぐ口の中に入ったのを確認し、何度目かは忘れたが、サイコキネシスのアッパーで強制的に臭い口を閉じさせる。
数瞬遅れて、ドラゴンの首が白く染まり、やがて頭部まで完全に凍結する。
「イザベラ。美味しいところは持っていっていいぞ」
「ハッ。2人も女囲っているくせに私まで口説こうってのかい」
いや、別にそんなつもりじゃ・・・。なんて冗談を言いつつ、イザベラがご自慢の武器から火を吹かせると、ドラゴンの氷像が粉々に砕け散る。
「あぶなっ」
オレまだ近くにいるのに・・・。イザベラ姉さん容赦ないっす。
水上に出ていた顔、首、背中が跡形もなく消し飛び、グロテスクな肉塊と化す。もはやドラゴンとしての原型をとどめていない。
まだほのかに温かみを帯びているその背中に乗ると、肉が剥き出しになっており、その奥には心臓と思わしき部位も確認できた。オレでも入る事が出来る程のサイズの心臓が、未だに脈を打っている。それに剣を刺し、完全に命を絶つ。
ドラゴンの心臓、ドラゴンハートと呼ぶべきか・・・。食べたら不老不死になる伝説があったりなかったりするが、それよりも一つ気になる事と言えば・・・。
「美味しいのかな・・・?」
気になったのなら仕方がない。そのまま血管を切って心臓を回収する。
そしてイザベラのトリガーハッピータイムが終わってから、氷漬けになっている尻尾を確認すると、そちらが無事なのを確認する。某アニメのドラゴンの尻尾のステーキを食べてみたいと考え、氷ごと輪切りに切り取り、剣を刺して持ち上げる。
「ケイジ。どうするつもりなの? それ」
気が付いたら傍らまで飛んで近付いていたミカエラ。ドラゴンステーキを知らないのか、不思議そうに顔をのぞかせていた。
「食べるんだよ。ドラゴンのステーキをリアルで食べられる機会なんて滅多にないだろうし」
「・・・トカゲよ?」
いや、ドラゴンです。相当不快感があるのか、ミカエラが嫌そうな顔をする。橋までれを持っていくと、イザベラ姉さん含む重装兵以外の人達には同じ様な顔をされた。
なんで皆嫌がるの? ファンタジーって言ったらドラゴンステーキと骨付き肉じゃん。
「いいねぇ坊や。久々に美味いつまみでビールを飲めそうだ。坊やも飲むだろ?」
オレまだ未成年だからビール飲まないし。まあ、イザベラ達重装兵部隊が喜んでくれているのなら結構。
今日は久々に焼肉が食べられそうだ。脂っこい料理を食べるのはかなり久しぶりになる。
そんな楽しみを共有しようと、帰投の際にガブリエル大統領へドラゴンステーキの件を連絡すると、ホワイトハウスの庭でBBQする事になった。それなら高い酒も用意されるだろうから、イザベラ達がもっと喜ぶはずだ。
一応コマンダーに肉が無害なのは確認してもらった。誰も食中毒になんてなりたくないからな。
一流のシェフも多数呼び付け、急遽立食形式でのパーティが開催される事となった。他にも各大臣や大統領秘書、シークレットサービス等多くの人が集まった。
シェフがドラゴンハートとドラゴンステーキを切り分け、熱した鉄板で焼いている。他にもたくさんのワインやビールといった飲み物も用意され、イザベラの目が輝いていた。その目をしていたら5歳は若く見える、なんて口にしたらオレの顎が消し飛ぶ事になるだろう。
誰しもが肉と酒に飛びつきたいのを我慢しているとガブリエル大統領が小さな壇上に乗る。その場にいた全員が口を紡ぎ、彼に視線を向ける。
「皆が始めて口にする料理を待ちわびているだろうから、手短に済ませよう。今回、このイベントを開催するきっかけとなったのは人類初のドラゴンスレイヤー、そして円卓のではないが騎士団のおかげだ」
円卓の騎士、って事はアーサー王伝説か。あれ? アーサー王ってドラゴン討伐してたっけ? 確か違った様な・・・。まあ、別にどうでもいいか。
「彼らがどれだけ世界に貢献しているのかは、我々連合の人間は深く知っている。彼らがいなければ地球人はもっと被害に遭っていた事だろう。彼らのおかげでたくさんの人が救われている。世界がそれを知らなくても、ここにいる人間は理解しているという事を知っておいてくれ」
ヤバい・・・涙出そう。
そんなオレを一瞥して、ガブリエル大統領は微笑む。相変わらず人を殺せそうな笑顔だけど。
「ウルシハ騎士団長と騎士団を祝して、乾杯ッ!」
「「「乾杯!」」」
こうして、『竜の日』という記念日が生まれたのは、来年知る事になる。




