094.カチカチ大作戦
聴覚が回復すると同時に、眩暈も治り立ち上がる事が出来るようになった。オレ以外の人をドラゴンに接近させるのはやめさせた方がいいな。それと鼓膜が破れない様に、マスクやバイザーに一定以上の音量は自動で小さくする機能でも付けてもらうか。
川を赤く染めながら、下からオレを睨み上げるドラゴン。片翼では飛ぶ事も出来なければ、地上で動くのもバランスが崩れてしまう事だろう。ヤツに出来る事は、精々ブレスを吐くぐらいだろう。
念の為もう片方の翼も切り落とすか・・・。いや、必要ないな。アンラ・マンユみたいな再生の力もないようだし。尻尾だと切っても生えてくる可能性はあるが、翼は難しい様だ。
なら次口を開いた時にミカエラにフリージンググレネードを投げ込んでもらおう。それまでは適当にあしらうか。
ゴライアスが2体は入りそうなその体に向かって、突き刺す様に剣を持って即席の足場から飛び降りる。落下しながら刀身を伸ばすも、ドラゴンはヘビみたいに足ではなく、体を這わせて川の中を移動して避ける。
ヘビというよりワニか。顔はワニっぽいし。というかこのままだと川に落ちる。泳いでいる間は完全に無防備になってしまう。
咄嗟に川沿いの歩道に向かって剣を伸ばし、突き刺して鉄棒の要領で1回転してクーナさんが用意してくれた足場に戻ろうと考えたが、視界がドラゴンの鱗で覆いつくされる。
尻尾だ。一瞬目を離した隙に、眼前まで長さ30メートル程の尻尾が迫っていたのだ。
「ヤバッ!?」
と口にしてみるものの、その状況を打開できる訳もない。
ドゴッ――
全身に鈍い衝撃が走る。同時に体が急加速して川の上を勢い良く飛ぶ羽目になった。
「「ケイジ!」」
ミカエラのとクーナさんの心配する声が通信機から届く。脳震盪は起きていないのと、体のどこに異常があるのか確認する。左腕と左の脇腹の骨が折れているが、それ以外は特に問題はない。
視覚強化と超感覚を併用して使い、動体視力と判断力を強化。着水する前に体勢を立て直す。そして水面に足を付け、水の抵抗を利用して減速。足の裏に感じる抵抗の強さから、ある事を思いつく。
そのまま角度を付けて水面を蹴ると、体は水の中に落ちずに加速する。スピードスケートの選手の様な体勢で水面を何度も蹴り、水上を走って近くの陸地に乗る。チャクラなんて無くても水の上を走る事が可能だという事は今証明された。
それからすぐに空中で待機していたミカエラが慌てて駆け寄ってきた。
「ごめん、しくじった」
「体は大丈夫?」
「大丈夫。もう治った」
ミカエラが心配してくれるが、骨折程度あれば十数秒で治る。左腕には痛みどころか、違和感すらもうない。
オレを弾き飛ばした張本人は、川の真ん中で陣取っている。空に飛べない今、そこが一番安全だと考えたのだろう。だが、別に手段がない訳じゃない。
「ミカエラ。グレネード2個ちょうだい」
30個ある内の2個をもらう。ドラゴンの体内で全て起爆する予定だったが、作戦変更。28個を使って川を凍結させる『カチカチ大作戦』だ。残った2個で仕留めるしかないが、何とかするしかない。
作戦をミカエラに説明し、ドラゴンの周囲の水を凍らせてもらう準備をしてもらう。
オレはグレネードを2個をポーチにしまい、そして三度ドラゴンへの接近を試みる。またもや何も言わずにオレが欲しいと思った位置に足場を作ってくれるクーナさんに感謝しつつ、それを利用して川の上を駆ける。
ドラゴンは完全にオレを敵と見なしているらしく、絶対に目を離そうとしない。正面からの対決は避けられないが、逆に好都合だ。ミカエラや他の人達が自由に動き回る事ができるのだから。
それを利用してドラゴンの側面から背面に回り込もうとする。ミカエラに死角に入ってもらう為だ。クーナさんには負担を掛ける事になってしまうが、他のアールヴもいるし、木だってそれなりに多い。何とか持ちこたえてもらうしかない。
だが、ドラゴンの背後までは届かない様だ。もっと大きな木があれば良かったが、景観を良くする為だけに植えられた木だ。期待するだけ無駄だろう。逆にそんなお粗末な木でここまで対応できたクーナさん達には頭が上がらない。
ここからは先程と同じ様に水上を走るしかない。濡れるから嫌だが、今はそんな事は言ってられない。
オレは足場から飛び降り、水面を力強く蹴ってドラゴンの周囲を走る。そして背後まで回り込むと、ドラゴンが体ごとこちらに向けてきた。
「計画通り」
とは言え移動されたら作戦が失敗に終わるので、ミカエラの為に足止めしなければ。
オレが水面に降りると同時に、ワニみたいに体を左右に振って泳ぐ。真っすぐこちらを捉え、捕食する為に。
距離がおよそ50メートルまで接近したところで、脚力強化を使って跳躍。更に腕力強化も使用し、空中で一度回転しながらその勢いを乗せた魔剣を薙ぐ。
それに対し、ドラゴンは頭を下げて角で受け止める。今回は川底に足を付けて踏ん張っているのか、全く仰け反らない。
だが、完全にその勢いを殺し、その場に停滞させる事に成功する。
「ミカエラ!」
すぐに愛しの天使を呼び、フリージンググレネードをドラゴンを囲む様に投下してもらう。5メートルの等間隔に並べられた28個のグレネードが降り注ぎ、着水する。直後、水中からバシュッと音が鳴り、辺り一面が一瞬で銀世界に変わる。
さあ、『カチカチ大作戦』の効果はどうだろうか。




