092.戦車型オメガ ヴォーティガン
赤いドラゴン。それもロンドンで。分かる人には分かると思うけど、ロンドンは何かとドラゴンに縁がある場所だ。『ウェールズの伝承』という有名な伝承があるぐらいには。内容は赤い竜と白い竜が戦うというものだ。
目の前にいる赤い竜がここロンドンを選んだのは偶然じゃない! ・・・そんな訳ないか。
頭から胴体、そして尻尾の長さが30メートルずつ。胴体は50メートル程だろう。つまり頭の先から尻尾の先端までの長さは100メートルを超える。今までで一番大きいオメガは成長したオケアノスだったが、それを軽く超える程の巨体だ。
ヤツがその巨大な翼を羽ばたかせると暴風が吹き荒れ、その巨体が宙に浮かぶ。重そうな体なのによく飛べるなと感心する。物理法則の観点で見ると、あの巨体を持ち上げるのは不可能なので、オケアノスみたいな浮遊する力があるのかもしれない。
「まさか実物のドラゴンを目にする事になるとはな・・・」
人生、生きていれば不思議な体験をするものだ、と下らない事を考えつつ、皆に指示を出す。
「イザベラ達は攻撃してくれ。絶対に外すなよ? 前に流れ弾で死んだ人がいて炎上したからな」
「任せな!」
香港の二の舞にはなりたくない。
「皆は翼を集中的に攻撃。とりあえず飛ばれたら面倒だから地上に落とそう。やばそうと判断したら転送で逃げる事」
「「「了解!」」」
屋外だからこそ、もし危険が迫っても転送装置に逃げる事ができる。リスクのある戦闘はなるべく避けなければ。命は1つしかないのだから。オレが言うと説得力があるだろう。
イザベラ達は早速発砲し、胴体に命中する。バトルライフルによる攻撃で、ドラゴンに致命的なダメージを与えられたらいいなと思っていたが、ベヒーモスを超える堅さの鱗を有している様だ。徹甲榴弾は弾かれ、軌道が逸れてしまった。
「堅そうだなぁ・・・。それに胴体が丸みを帯びているせいで弾が逸れているのか。イザベラ達も翼に攻撃してくれ」
「ッチ」
ご自慢の武器が通用せず、イザベラが舌打ちする。よくタバコ加えながら舌打ちできるな・・・。
彼女達重装兵が飛んでいるドラゴンの翼目掛けて発砲すると、空飛ぶトカゲが横に避けて弾を躱す。巨体な体を空中で制御し、華麗に避けたのだ。どいつもこいつも器用だな。
外れた弾が民家や人に当たっていないのを祈りつつ、オレはサイコキネシスで叩き落せないか試す為、接近する事にした。
川の上を飛んでいるドラゴンとの距離を詰める為、川沿いの歩道を進む。サイコキネシスの射程距離、およそ200メートル以内に近づいたところで、ドラゴンがオレを視認した。縦に割れている鋭い瞳孔がこちらを捉え、そのワニに似た顔を向けてくる。
火でも吐いてくるのだろうかと眺めていると、その口内にある牙を擦り合わせて火花を散らしている。その行為にどんな意味があるのかは分からない。そしてヤツがこちらに大きな顎を開けてきた瞬間、空間が歪むのは見えた。
サイコキネシスではなく、それが単純にガスによるものなのは異臭ですぐに気が付いた。内臓の一つでガスを発生させ、肺に送り込む。勢いよく吐き出して指向性を持たせて噴射。それを牙を擦り合わせた際に発生した火花で引火させる事で『ドラゴンブレス』の完成、といったところだろう。
つまり引火させるまでの間に、ガスの外に移動さえしてしまえばブレスは避けられるはず。ガスが可燃性で、爆発力がない事を祈るばかりだが。
距離を詰めつつ異臭が消えるまで移動していたところでドラゴンが口を閉じ、火花を散らせる。刹那、視界が真っ赤に染まる。
辛うじてガスの範囲外に出ていた為、すぐ横を炎が通り過ぎる。
「あっつ!?」
とはいえその熱波までは避けられなかった。息を止めて肺が焼けるのを未然に防ぐも、熱波で皮膚が焼けてしまった事につい声を出してしまった。
それにしても、火炎放射器の様なブレスを吐いてくるなんて・・・少しありきたり過ぎるな。
初めての爬虫類型のオメガといい、ファンタジーというか架空の存在の代名詞とも言えるドラゴンといい、今回はいつもと違って路線が違う。爬虫類をベースにしたオメガをお試しに造ってみただけなのだろうか? 例えそうだとしても、一体何故?
まだ見た事のない主な動物はネコ科や鳥類、魚類、そして両生類あたりだろうか。っと、今はそんな事気にしている場合じゃないな。
オレはギリギリまで陸地を走り、ブレスを吐き終わって一息ついているドラゴン目掛けて跳躍する。既にサイコキネシスの範囲内だが、確実に仕留める為に更に接近する。
川に落ちたくないと思いつつ、ドラゴンと同じ高度まで跳んだオレはサイコキネシスでドラゴンの背中目掛けて上からぶん殴る。
そのままドラゴンが川に落ちるかと思ったが、僅かに高度が数メートル下がるだけに終わる。徹甲榴弾が効かない事といい、やはり頑丈だ。
グルルルルルル――
威嚇の為か、こちらを睨みながら喉を鳴らす。その生意気な顔面に次はサイコキネシスでアッパーを食らわすが、首が少し仰け反るだけでダメージは与えられない。
倒しきるつもりだったが失敗に終わり、このままだと川に落ちてしまう。仕方なく自分をサイコキネシスで吹っ飛ばそうしたところで体が宙に浮いた。
「お?」
そのまま引き寄せられ、空中で抱き締められる。その犯人は天から舞い降りた天使だった。
「おかえり」
「ただいま」
笑顔で言うミカエラの胸に顔を埋めながら、そう返した。




