091.重装兵
新型オメガを除けば、最も厄介とも言える特殊型オメガ アイテールを簡単に仕留める事が出来た。後は他のオメガをゆっくりと倒せば被害を出さずに済むだろう。
バジリスクはミカエラが空中を飛びながらサイコキネシスで続々と仕留めている。オレが羽蟻と呼んでいる蛾の羽が生えた体が蟻のオメガ、バジリスクを千切っては投げている。おそらく30分も経たずにバジリスクを殲滅してくれる事だろう。
正直空を飛べるのは羨ましい。オレも飛んでみたい。自分の体を吹っ飛ばすのと飛ぶのでは訳が違う。
その光景を眺めていると、突如何もないところの空間が歪む。それと同時に絶命した事により透明化を維持出来なくなったバエルの死骸が現れる。クララが仕留めたのだろうけど、透明なバエルを千里眼で捉えるとか意味が分からない。
燃費の悪さを除けば、彼女は間違いなくチート級の強さを誇る。ちょうど10体のバエルを仕留めると同時にクララがガス欠する。やはり燃費が悪い。アメ車もビックリだ。彼女にはそのまま後方で休憩してもらおう。
戦車型はどうだろうかと川に視線を向けると、ベヒーモスとゴライアスの2種計60体が進行していた。ゴライアスは体の半分程出ているが、四足歩行のベヒーモスは背中しか水から出ていない。あれ溺れているんじゃないか?
そんなベヒーモスとゴライアスがルカとアンジェ達に誘導され、十分に接近した所でイザベラ率いる重装兵が橋から射撃する。新しく開発された武器『バトルライフル』から発射された徹甲榴弾が大型オメガの戦車型を容易く葬っていく。強固な外皮を貫き、体内で爆発してダメージを与えるその弾は戦車型に非常に有効だ。一方で、コスト面から斥候型の殲滅には向かない。
数分も掛からず、たったの5人だけの射撃で戦車型を殲滅してしまった。
「知性のないゴミが。アタシに勝とうなんざ百年早ぇ」
さすがイザベラ姉さん。口は悪いが腕は確かだ。そのあまりにも早い殲滅速度には驚かされる。
もう剣なんて時代遅れの産物だよ・・・。オレだったらもっと時間掛かるよ。
自分の存在価値に疑問を抱いていると、魚でも捕食したのか、大きくなったオケアノスが水中から5体現れた。今まで姿が見えなかったのは、水中で食事をしていたからだろう。
こんなところで爆発させる訳にはいかない。ビッグ・ベンにもしもの事があったら大変だ。
オケアノスの自爆を無力化するフリージンググレネードは、今回全員が携帯している。もちろんオレも。
腰にあるポーチからそれを取り出し、いつでも自爆に備える。
「戦乙女部隊、ミカエラのサポートに移ってくれ。イザベラ、オケアノスを1体ずつ仕留めてくれ。オレが凍らせる」
「了解であります! すぐに向かいます!」
「しくじるんじゃないよ!」
アンジェ達はすぐに移動を開始し、残ったバジリスクに射撃を開始する。イザベラはオレの言う通り、ゆっくりと1体ずつバトルライフルで撃ち抜いていく。
それに続いて絶命してオケアノスの体が青から赤に染まり、爆発する前にグレネードを投擲して起爆。絶対零度の冷気がオケアノスの体ごと辺りを一瞬で凍結させる。
浮遊する事が出来なくなり、ゆっくりと落下して川の中に落ちていく。水中で解凍され、小規模の爆発がするも、周囲の建物に被害がある程の衝撃は地上に届かない。ただこの川、テムズ川の地下を通る為のトンネルが存在するが、それが無事かは正直分からない。
怒られるかなぁ・・・。まあ、仕方ないか。
残り4回、同じ事を繰り返して、オケアノスの殲滅に成功する。それとほぼ同時にバジリスクの片付けも終わる。
「残りは新型だけだ。全員、橋に集合」
「すぐに戻ります」
「こちらも戻るであります」
ルカ、アンジェ達が戻り、一旦全員集合する。新型がデカそうなので、クーナさん達と重装兵以外は苦手な分野になる為、あまり活躍できそうにない。
とりあえず橋の手すりに手を付いて、未だに水中にある卵を眺める。
だがしばらく経っても、一向に動きがなかった。
「ったく、面倒臭ぇ」
タバコを数本吸っていたイザベラがしびれを切らし、バトルライフルを構える。勝手に引き金を引いたりせず、オレに視線を向けて発砲許可を求める。
言動からは分からないと思うが、彼女はかなり理性的な人だ。
オレは無言で頷くと、待っていたと言わんばかりにイザベラが発砲する。川の中、1キロ程離れた位置にある白い卵に着弾すると、それは割れて崩れ落ちた。
中にいる新型オメガがその姿を現すと、誰もが驚愕する事となった。
色合いは全体的に赤色で、頭はワニに近い。がその頭部には2本の角がある。二足歩行で、前足は短いものの、鋭い爪が輝いている。長い尻尾も特長的だ。そして何より目立つのは、その背中から生えている蝙蝠に似た見た目の大きな翼。
そこにいた誰もが、一目でそれが何か分かった。
『竜』だ。
オレいつの間にファンタジーの世界に異世界転生したんだっけと思うも、既にエルフと魔法が身近にある事を思い出す。つまりドラゴンだって存在して当然なのだ。
日の光を浴びて覚醒したのか、ドラゴンが翼を広げて咆哮をあげる。
グルォオオオオオオオオオンッ――
爆発音みたいな轟音に近いそれは、1キロメートルも距離があるというのに、鼓膜に痛みが走る程だった。
何気に爬虫類のオメガは初めてだと感心していると、隣にいたクーナさんがドラゴンを指さす。
「ケ、ケ、ケイジ! あれは何だ!?」
いや、エルフのあなたが一番驚くんかい。
ファンタジーの存在が別のファンタジーの存在に驚くその姿はあまりにも滑稽だった。




