081.体液
ケイジが意識を失って3日が経った。ミスターコマンダーは、極度の脳疲労のせいなのでもうすぐ目を覚ますと言っていた。
点滴を打ちながら眠るケイジの頭を撫でながら、目を覚ますのを待つ。
アメリカ全体に襲撃をされたあの日、ケイジは何をしていたのか聞いた時は耳を疑った。
朝、香港に移動。バエルの巣を捜索、そして殲滅。その後現れた新型オメガ 特攻型オケアノスの自爆によって重症を負う。
輸送船にてアメリカ ワシントンまで移動。新型オメガ 特殊型アイテールの熱線により右腕の皮膚が全て溶ける重傷を負う。
ワシントンからマサチューセッツまでサイコキネシスによる移動により、脳に異常なまでの疲労が蓄積。
そんな状態になってまで私を助けに来てくれたのだ。再生の力があるのは知っている。だからと言って痛みを感じない訳ではないのも知っていた。
私に戦う力があれば・・・。せめて自分の身を守るぐらいの力があれば・・・。
彼にこんな状態になるまで戦わせずに済んだはずだ。
「ごめんなさい・・・」
未だに目覚めない彼の額にキスして、部屋を後にする。
私は目的地に足を進める。もうこれ以上、見守るだけなのを終わらせたい。覚悟を決め、コマンダーのいる司令室に入る。
『君か。彼は?』
それに対して黙って首を横に振る。
「ミスターコマンダー。お願いがあるの」
『珍しいな』
「私に――」
足手まといにはなりたくない。これ以上、彼だけが無茶するのなんて見たくもない。
だから――
「――オメガの因子を結合させて」
彼と肩を並べたい。私だけが普通の人である事はもうやめたい。
それに対し、ミスターコマンダーは少し間を置いて答えた。
『無理だ』
パパから指示されているのか、検査もしないで否定する。
「私だって彼と戦いたいの。適合するかどうかだけでも調べてちょうだい」
『既に調べている。過去に彼にアンラ・マンユの因子を結合する前、君の血を採取しただろう。それで他の因子の適性も確認済みだが、結果は全て適性なし』
「そんな・・・」
彼の横に立つ資格すらないというの・・・。
「お願い・・・ミスターコマンダー・・・もう一度だけ調べて」
『何度調べても結果は変わらない』
「お願いよ・・・」
『・・・一度だけだ』
懇願したおかげか、彼はもう一度私の血を採取して検査してくれた。
これで結果が変わらなければ、違う方向で彼を支えよう。その方法はまだ分からないけど、何としてでも彼の力になりたい。
「お荷物になるのはもう嫌・・・」
もしからしたら新型オメガの適性があるかもしれないと期待していると、ミスターコマンダーが頭を抱えて戻ってきた。抱える頭はないけど。
『あり得ない・・・』
「どうしたの?」
『君の血液を前回調べた際、オメガ因子の適性は全く出ていなかった。これは時間の経過や食生活等で変わるものではない。だが、今の君には強い適性を示す因子が存在する』
「ほ、本当に?」
何が影響したのか不明だけど、これで彼の力になれる。
期待してどの因子に適性があったのか聞く。
『クトゥルフの因子だ』
あの気持ちの悪い脳みその化け物の因子というのは正直嫌だったけど、それ以上に強力な力だというのは、ケイジを通して認知している。
つまり、私にもサイコキネシスが使えるという事だ。
「ミスターコマンダー、すぐにでも私に因子を」
『そんな簡単なものではない。彼なら特に気にする必要はないが、彼以外の人間に因子を結合させる場合、最大限の注意を払いつつ手術を行う必要がある。因子を投与する量、時間、体調等、気にしなければならない要因が多数ある』
「なら最大限の注意を払いつつ迅速に行って」
『だからそんな簡単なものでは・・・。はあ、その覚悟は本物の様だな。数日待て。君の体に負担が掛からない様にする方法を模索しておく』
「ミスターコマンダー!」
あまりの嬉しさに彼を抱き締めてその額にキスする。
『やめろ』
これで私も彼の横に立てる。彼と、そしてクーナと一緒に戦える。
そう喜ぶ私を払い除け、ミスターコマンダーが空中に避難する。
『方法が判明次第、連絡する』
「えぇ! 待っているわ!」
『それと一つ確認したい事がある』
「確認って?」
一体どれだけ待ったらその時が来るのかと心待ちにする私に、ミスターコマンダーがある事を聞いてきた。
『以前採血した時と、今採血するまでの間に何があった? オメガの因子に適性するその要因を解明出来れば、より多くの適性者を生み出す事が出来る』
以前採血した時と今で、一体何が違うのだろうか。前は彼を蘇生する時に採血した。その時から今までであった事と言えば――
記憶を張り巡らせるも、心当たりはない。
『おそらくだが、彼が関わっている』
ケイジが? 彼が生き返った後にした事? キスやその・・・それ以上の事もしたけどそれが原因?
『なるほど。その様子だと、彼と体液の交換、いや彼の体液を摂取した事がトリガーか』
「た、体液って・・・」
『突然変異したとは考えにくい。彼とのそういった行為を長い事繰り返していた為、君もゆっくりと変異したのだろう』
「繰り返し・・・」
確かに繰り返していたけども! 恥ずかしいから言葉にしないでほしい・・・。
恥ずかしげもなく言うミスターコマンダー。彼にはそういった感情とは無縁だろうけど、もう少しぐらい気を遣ってくれてもいいのではないだろうか。
『これからも彼の体液を摂取してくれ。そのデータを取りたい』
「いやよ! データなんて!」
『汗や唾液、それとせ精――』
「わぁぁあああああああっ!」
この球体は一体何を口走ろうとしているのだろうか! 慌てて叫んで聞こえないふりをしながら部屋を後にする。
ミスターコマンダーには恥じらいという感情を学んでほしい。こんな話を頻繁にされたら堪ったものではない。
熱くなった顔を手で仰いで冷やしながら、私はケイジが眠る医務室に戻った。




