078.オレの天使
体がボロボロだ。サイコキネシスの酷使で頭が痛い。脚も酷使したせいで膝が笑って立っているのもやっとだ。超回復も使い過ぎたせいで飢えて逆に吐き気がする。
それでも、ミカエラを抱き締める為ならば、地の果てまで喜んで行くさ。
彼女の唇から感じる熱が、満身創痍のオレの体を癒していく。
ホントに助けられて良かった。オレの天使――
唇を離し、再び彼女を強く抱き締める。
「コホン。2人だけの世界に入るのは後にしてもらえるかしら?」
と、そこで初めてミカエラ以外の人がいる事に気が付いた。ミカエラの友達と思わしき女性の言葉で、慌ててミカエラと離れ、お互いに背中を向け合う。
クーナさん以外の人にミカエラとのキスを見られてしまうとか恥ずかしすぎる・・・。それも気付かずに2回目以降もしそうになるとか・・・。
顔から火が出そうな程恥ずかしかったが、一応今は緊急事態だし、気を取り直さなければ。
「そ、そうだな。とりあえず安全な場所に移動しよう」
「え、えぇ、そうね。安全な場所に移動しましょ」
耳まで真っ赤になっているミカエラが愛おしくて、お互いに目が合うと笑いが込み上げてきた。
「だからイチャイチャするのは後にしてって言ってるでしょうが!」
「ご、ごめん」
怖っ! ミカエラの友達怖っ! オメガよりも怖くてつい謝ってしまった。この人は怒らせたらダメだ。
再び気を取り直してどうしようか考えたところで、生き残っていた男がオレの胸倉に掴みかかってきた。
「なんでもっと早く来なかったんだよ! お前が遅いせいでニックが化け物に喰われただろ!」
お友達が死んだ事を悔やんでいるみたいだが、正直興味はなかった。そんなに守りたいのなら、志願して軍に入ればいい。
自分で行動を起こさない他力本願のヤツの言葉なんて、何の意味も持たない。
「ブラッド! やめなさい!」
ミカエラの友達が止めようとするが、それよりも早く、オレはこの男の手首を軽く握る。
「ぐぁああああああああっ!」
たったのそれだけで呆気なくオレの胸元から手を離し、膝を付く。このまま握り潰す事は簡単だろうけど、別にそこまで痛めつけるつもりはない。すぐに手を離して解放する。痛みが引かないのか、掴まれた手首を押さえて、肩で息をするそいつに構っている場合ではない。
ここまで来る途中で母艦を見かけたので、すぐにコマンダーが新型オメガを仕留めてくれるはずだ。
その前に校内の安全を確保したいところだ。
「さっきまで教室に?」
ミカエラに尋ねると、頷く。
「えぇ。でも教室にトウテツが入ってきて・・・。逃げてそこの食堂を通って外に出てきたの」
食堂・・・?
襲われたのが昼前後なら食べ物が残っているかもしれない。この飢餓感を何とかできればまだ戦えるはずだ。
「ちょっと食堂に寄ろう」
「え? 分かったわ」
ミカエラとその友人、後ろからあの男も黙って付いてくる。食堂の中に着くと、死体と真っ赤に染まった床と壁が目に入ったが、それよりもカウンターの奥にある冷蔵庫に視線が釘付けになる。
カウンターを飛び越え、冷蔵庫の中を物色すると、リンゴとバナナ、牛乳を見付けた。
「ラッキー」
それらを取ってカウンターに並べる。カウンターを飛び越えてそのまま腰掛け、置いたリンゴを取って齧りつく。その様子を見て3人は固まっていた。
「ごめん、朝から何も食べてなくてさ」
そう言って紙パックに入っている牛乳にストローを刺して口にする。
「だからってこんな血塗れの食堂で食べなくても・・・」
ミカエラに注意されてから、食堂だけど確かに物を食べるのに向いている雰囲気ではない事を思い出す。
「屋内の方が警戒する範囲が外より狭いから」
バナナの皮を向いて頬張り、とりあえず最低限のエネルギーを確保する。
深呼吸をし、本日何度目か分からない超回復を使って疲労を取り除く。ただ、摂取した少量のエネルギーでは、脳疲労まではとれなかった。要は頭痛と倦怠感がする。しばらくサイコキネシスは控えた方がいいだろう。
「よし、行こう。コマンダーが近くまで来ているはずだから」
カウンターから降り、ミカエラの手を握ってそのまま外へと向かう。パッと見たところ、トウテツは見当たらない。が、今のオレはかなり集中力が落ちている。気を張って警戒しておかないと。
そのまま校外へと歩くと、すぐに住宅街に出る。こんな住宅街のど真ん中にあるなんて、予想外だ。・・・いや、日本の学校だって同じか。
とりあえずニューヨークのある南西方向に進むべきか、都市がある方向に進むか悩む。おそらく新型オメガがいるのは都市の方、ボストンだろう。コマンダーもそっちに行くはずだ。
家屋の間や屋上から奇襲されない様に気を付けながら、ひたすら道を進む。
「ミカエラ、疲れてない?」
「大丈夫よ。ケイジは?」
「朝からずっと戦ってたから、正直もう寝たい」
「ふふっ。帰ったらクーナと3人で寝ましょ」
ああ・・・非常に魅力的な提案だ・・・。今すぐにでもベッドに飛び込みたい・・・。
欲望の渦に溺れたらどれ程気持ちいいだろうか。ただ、それは視界に映るオメガが許さないだろう。
ミカエラから手を離して、代わりに剣を握る。
今日はまだまだ寝られそうにないな。
「ケイジ・・・怪我しないでね」
今にもぶっ倒れそうだったが、なんか・・・まだまだ頑張れそう。天使がそばにいてくれるから。




