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黎明を灯す光 ~神に至る道~  作者: Mr.Z


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077.私の英雄

 不安な心がいっぱいになっていると、レイチェルが目の前に来た。


「レイチェル・・・?」


 一体何をするつもりだろうかと考えていたら、両手で私の頬を軽く叩いた。


「しっかりしなさい。彼にまた会うんでしょ」


「・・・そうよ。こんなところで死んでいる場合じゃないわ」


 ケイジにまた会う為にも、何とかここを切り抜けないと。彼なら絶対に助けに来てくれる。


 となると、彼に見付けてもらいやすい場所かつトウテツに見付かりづらい場所。そんな理想的な場所なんてこの学校にあるだろうか・・・。


 避難するなら屋上? 食堂?


 屋上は壁を登って直接来られてしまったらマズい。そもそも屋上に行くにはどこかの窓からよじ登る必要がある。


 食堂であれば、食べ物の臭いでやり過ごす事が出来るかもしれない。ただ、そこは1階。既にトウテツが入り込んでしまっている場所を通る必要がある。あまりにも危険だ。


 このまま教室に立て籠もる? 教室にいるのは約30人。この人数で動き回るのは得策ではない。窓から飛び降りたくても、ここは3階。気軽に跳べる高さではない。


「私はこのまま隠れているのが良いと思う。30人で静かに動ける訳がない。気絶しているあの子も置いていくわけにはいかないし」


 どうするか悩んでいた私に、レイチェルがブラッドに気絶させられた子を指さして言う。


「そうね。今はとにかく誰も動かないで。全員スマホをマナーモードにして」


 全員で移動するのは現実的ではなかった為、結局立て籠もる事にした。それが正解かは分からない。既に1階の生徒だって襲われている。だけど力のない私達に出来る事なんて何もなかった。


 それからどれくらいの時間が経ったのか分からない。10分しか経っていないのか、1時間以上経っているのかも。


 トウテツがまだ校内にいるのか、もう既にいなくなったのかも分からない。しばらくの間、悲鳴は聞こえていない。


 ゆっくりとスマホを確認すると、時間は午後4時。既に立て籠もってから2時間以上経過していた。


「なあ、そろそろ大丈夫じゃないか?」


 ブラッドが近くの友人に聞いていた。その友人がゆっくりと窓際に寄り、カーテンの隙間から外を確認する。


「・・・近くにはいない、と思う」


 校庭にトウテツはいないらしい。だからといって気を抜く事は出来ない。


「待って。まだ気は抜かないで。近くにいたらすぐに気付かれるわ。ゆっくりと移動しましょう」


 相手がどこにいるのか分からない恐怖。まだ殺した生徒を捕食している最中かもしれない。実はバリケードの前で待ち構えているのかもしれない。不安で噴き出た汗が額から流れ落ちる。


 私とレイチェル、それにブラッドとその友人の一人でゆっくりと教室の外に出て、防弾バリケードを解除する。ゆっくりと廊下が安全か確認すると、トウテツの姿は見えない。


 別の階にいる可能性もある為、私達は静かに移動する。


 と、その時。


 パリンッ――


 窓ガラスが割れる音がした。振り返ると、教室の窓から3匹のトウテツが侵入しているのが見えた。


「走って!」


 レイチェルが私の手を取ってすぐに走り出す。手を引かれながら教室の様子を見ていると、あっという間に鮮血が一面を染め、『赤』でいっぱいになっていた。


「ごめんなさい・・・」


 偶然のタイミングで動いた私達だけが生き残ってしまった事。クラスメイトを見捨ててしまった事に、自然と謝罪の言葉が漏れた。返事はない。あるのは悲鳴だけ。


 本当にごめんなさい・・・。


 レイチェルに引っ張られて走り、1階に降りて食堂まで逃げてきた。道中でもトウテツに襲われた人と思わしき血液と肉片が転がっていたが、それは食堂の中でも同じだった。


「クソッ。ここもかよ・・・」


 一緒に逃げていたブラッドがその光景を見て悪態をつく。さっきまで普通の学生生活を送る平穏な場所だったのに、たったの数時間で地獄絵図となってしまった。


 その光景をずっと見ていては自分の中の何かが壊れていく気がしてならない。


 私達は何も言わずに食堂から中庭に通じる扉をくぐる。他の棟の生徒が来やすくする為、または晴れた日に外で食事をする為に設けられたその扉を、こんな事の為にくぐるとは夢にも思っていなかった。


 4人で外に出る。周りにトウテツは見当たらない。


「今のうちに行こうぜ」


 ブラッドの友人がそう言って走り出す。


「待てよニック」


 ブラッドがそれを追おうとした瞬間、その友人が視界から消える。


「・・・え?」


 一体何があったのかと視線を横に向けると、トウテツに内臓を食われていた。


「ニック!」


 ブラッドが彼を救おうとするも、校舎の中から続々と現れるトウテツの群れが現れて足が自然と止まる。どうやら食事をしていただけで、一匹もいなくなっていなかったようだ。


 獲物を弄ぶようにゆっくりとこちらに近付いてくるその光景に、絶望を覚える。


 レイチェルも同じなのか、私の手を握っている力が強くなる。


 こんな所で終わるの・・・?


 ケイジとしたい事も、行きたい所もたくさんある。ケイジの両親にだって挨拶もしていない。


 まだ死にたくない。ケイジと一緒にいたい。


 彼への想いを踏みにじる様に、トウテツが嘲笑いながら飛び掛かってくる。


「ケイジ・・・。ケイジィイイイイイイッ!」


 彼なら必ず来てくれる。そう思って彼の名前を叫ぶ。


 眼前まで迫るトウテツが私を捕食しようと口を開く。その中にある牙が鮮明に見えた。あれに噛み砕かれて私は死ぬのだろう。


 死を覚悟しようとしたその時、空から黒い何かが降ってきた。


 それはトウテツの体に突き刺さり、地面に釘付けにする。


 私は『それ』を知っている。実物を見た事はないが、映像の中で何度も見た事があるその『黒い剣』を、私は知っていた。


 続いて周囲にいるトウテツがその場でいきなり潰れて血溜まりを作って絶命する。


 直後、何かが私の前に落ちてきた。白くなってしまった髪に、所々破れてしまっている黒いコートを身に付けている彼は、まさしく私が求めていた人だった。


「ごめんミカエラ・・・遅くなった」


「ケイジ・・・ケイジッ!」


 レイチェルの手を放し、彼に駆け寄る。彼もマスクを外して両手を広げて私を迎え入れてくれた。そしてお互いに強く抱きしめ合う。


「来てくれるって信じてた」


「ミカエラの声、ちゃんと届いたよ」


 彼の体温を感じながらお互いに見つめ合い、そして勢い良く唇を重ねる。


 乱暴なキスになってしまったけど、一秒でも早く彼を感じたかった。


 愛してる。私の、私だけの英雄――


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