076.スクールジャック
レイチェルと一緒に学校の食堂で昼食を摂り、午後の講義の準備をしているとスピーカーからサイレンの音が鳴り響いた。
『外にオメガがいます! 校内にいる生徒は教員の指示に従ってバリケード装置を起動して隠れてください!』
突如流れた校内放送の内容に驚愕する。
オメガの襲来は大気圏に入るよりも早く観測できるはず。それなのに既に屋外にオメガがいるなんてあり得るはずがない。ミスターコマンダーがそれを許すはずがない。
「おい! バリケード閉めるの手伝え!」
前に話し掛けてきたブラッドが他の男子生徒と教師と一緒に廊下に出て入り口を塞ぐ防弾バリケード装置を展開する。銃乱射事件が起きた時に備えて教室を閉鎖する為の扉。それで教室の入り口を塞ぐ。
そしてドアに付いている窓ガラスから中が見えない様にカーテンも下ろす。
「ミカエラ、私達も机でバリケードを作りましょ」
隣にいたレイチェルが言う。
「えぇ」
教室のカーテンを閉める時に、外の様子を伺うも、校庭にはまだオメガの姿は見えない。3階の窓から
なら遠くまで見えると思ったが、木々に視界を遮られて遠くまでは見えなかった。
その後クラスメイト全員で机を移動させて簡易的なバリケードも作る。これで一安心かと思ったが、隣にいたレイチェルがスマホを見てため息をつく。
「圏外になってる」
その言葉を聞いて私も確認してみるも、確かに圏外になっていた。考えられるのは通信障害が起きている。電波塔をオメガに破壊されたのかもしれない。
だけど、コレなら使えるはず。
左腕に付いているブレスレット、ノアの箱舟に転送する為の起動装置兼、通信装置でもあるコレならば、例えスマホが使えない状況でも問題なく使えるはずだ。
「ミスターコマンダー。聞こえる?」
通信を試みる。ミスターコマンダーであれば、眠る事がない為どんな時でも通信が繋がるはず。だが、返事が返ってくる事はなかった。
こんな事ありえる? スマホも通信装置も使えない。オメガの襲来も観測できない。偶然が重なってその様な状況になるとは考えにくい。
つまり、これは新型オメガの本格的な襲撃を意味する。
「おい、校庭にオメガがいるぞ」
好奇心でカーテンの隙間から外を見ていた男子生徒が小声で言う。
それに続いて数人が外を見ると、犬みたいな化け物がいるという声が聞こえた。おそらく斥候型オメガのトウテツだろう。あれは鼻だけではなくて耳も良いから静かにしておかないとすぐに見付かってしまう。
「みんな、あのオメガは耳も良いから絶対に音を立てないで」
一般的にオメガの情報は公開されていない為、みんなに注意喚起する。ネットで見た目を見る事は出来ても、その特性まで把握するのは難しいだろうから。
ケイジが戦っている相手だから、私は全てのオメガの特性を頭に叩き込んでいる。
「ミカエラ。あれの弱点とかないのか?」
ブラッドが勇んでそんな下らない事を聞いてくるが、素手で倒せる様な相手だったらケイジが苦労するはずがない。
「ないわ。普通の銃だと傷一つ付けられない。一匹でも、校内にいる人間を全員殺せるぐらいの強さよ」
そんな化け物でもオメガの中が最弱で、数千から数万単位で群れている。本当にケイジがいる防衛軍の人達には畏敬の念を覚える。
「マジかよ・・・」
簡単に倒せると考えていたのか、ブラッドが冷や汗を流して静かに座る。例え適合者であろうと、素手で倒す事は出来ない。ただの高校生が立ち向かう事なんて不可能だ。
「いや、みんな殺される、死んじゃうの、死にたくない、死にたくない死にたくない」
誰もが息を殺し、トウテツが去るのを待っている中、恐怖に支配されて錯乱する一人の女子生徒。いつもは教室の隅で大人しくしているイメージがあったが、メガネを掛けているその子が髪をかきむしりながらブツブツと何かを呟いていた。次第にその独り言は大きくなっていく。
「静かにしろ! 死にたいのか!?」
ブラッドが小声で止めようとするも、錯乱している相手には無意味だ。
「どうせみんな死ぬのよ! 毎月オメガに何人殺されてるのか知ってんの!?」
怒声並みの声量で声をあげる。そのせいでオメガが来てしまうのではないかと不安が募る。
「このバカ女!」
ブラッドはそんな状況でも冷静に、錯乱している女子生徒の背後に回り、首に腕を回す。バックチョークと呼ばれる背後から首を絞める技。それで女子生徒をすぐに気絶させた。
素人がやったら危険な技だけど大丈夫かしら・・・。まあ、今回はみんなの命が掛かっているから見なかった事にしよう。
私は再び、ゆっくりとカーテンの隙間から外を確認する。3階の窓に飛び込んでくる事はさすがになく、今も校庭を散策していた。
どうやら今の声を聞かれた訳ではないみたい。自然と安堵の息を吐く。
だが、臭いのせいか音を立ててしまったのかは分からないが、今いる教室の真下、1階の教室の窓に興味を示していた。
「まずい・・・」
私が呟くのと同時に1階の窓が割れ、複数の悲鳴が響き渡った。強化ガラスのはずなのに、呆気なく割られてしまった事に、防弾バリケードなんて役に立たないのではと疑問を抱いてしまう。
このまま逃げた方がいいのか、教室に隠れたままの方がいいのか・・・。
どちらが正しいのか分からない。もしかしたらどちらも間違いの可能性だってある。
苦渋の決断を迫る。トウテツは既に屋内にいる為、残された時間は僅かだ。
「ケイジ・・・」
不安な心を少しでも誤魔化す為、愛する人の名前を口にする。




