067.大統領の護衛
ガブリエル大統領の事をもしかしたらお義父さんと呼ばなければならないのかと思うと、鳥肌が立ってきた。このギャングの親玉みたいな人を見たらオレの家族は失神するのではないだろうか。
「お久しぶりです。ガブリエル大統領」
「ああ、実に久しぶりだ。最も、君の死体は何度か見ていたけどね」
自分の死体を見られるなんて滅多にない機会だ。
彼はオレの肩を優しく叩き、隣の席に腰を下ろす。
「改めて、娘の事は君に任せてもいいか? ミカエラには辛い思いをたくさんさせてしまったから、幸せにしてくれるパートナーがいてくれると安心できる」
「・・・はい。全力で彼女を幸せにしてみせます」
ガブリエル大統領の言う辛い思いというのは分からないが、オレが出来うる限りの事を尽くして彼女を幸せにしてみせる。その決意は嘘じゃない。
オレの言葉に満足したのか、笑みを浮かべる。あ、悪魔みたいな笑顔だ。この顔で一体今までに何人葬ってきたんだろうか・・・。
「結構だ。君には期待している。色々とね」
意味深な発言をした後、彼は立ち上がりコマンダーに視線を向ける。
「コマンダー。護衛に関しては彼に頼む事にするよ」
『彼なら適任だ。ソルジャーを連れていくよりもそちらの方がいいだろう。あれはただの人間には恐怖心を植え付けてしまう可能性がある』
一体なんの話をしているのか分からないが、彼とボールが意気投合して何かを企んでいるのは分かる。
嫌な予感がしたオレは静かに立ち上がり、部屋を後にしようとする。
「待ちたまえ。未来の息子よ」
「はい・・・。お義父さん・・・」
ちっ。バレたか。
大人しく立ち止まると、ガブリエル大統領がテーブルに腰掛けてこちらを見ていた。その顔には悪だくみをしている子供の様に無邪気な、いや邪悪な笑みを浮かべていた。
「これから演説がある。君には私の護衛を頼みたい」
「えんぜつ?」
「ああ。戦争を軽視している愚か者共に向けてオメガの危険性を伝えなければならない」
それはけしからん。たくさんの兵士が命懸けで戦っているのに戦争を軽視する人間が未だにいる事に驚きだ。強制召集された人以外にも、志願した人だって中にはいる。誰も死にたい訳ではないが、平和の為に戦う事を覚悟して戦場に立っているんだ。
「それと遺族から命を狙われる可能性が高い。色々と恨みを買ってしまっているからね」
「・・・分かりました。大統領の事はオレが命を懸けても守ります」
「いや、君に死なれたらミカエラが悲しむ。まあ、実際に一度死んでしまったが。ミカエラがあんなに落ち込んだのは妻が死んだ時以来だ。だからどちらかが死ななければならない時は、君が生き残れ」
ガブリエル大統領の発言に、一瞬言葉を失う。一国の長が護衛を頼んでおきながら、自分の命を優先しろというのだから。矛盾しているが、彼は父親でもあるのだ。何だかんだ、ミカエラが一番大切なのだろう。
「分かりました。大統領の事は全力で守ります。ミカエラの為、お互い死なない様に」
「上出来だ。それと私の事は先程の様にお義父さんと呼びなさい」
おっと? さっきふざけてお義父さんと口走ったのが仇となってしまった。
「はい・・・お義父さん・・・」
「よろしい」
お義父さんと呼ぶと、満足そうに禍々しい笑顔を浮かべるガブリエル大統領。オレでなかったら失禁しているよ。
その後、オレは武装してからガブリエル大統領と二人、アメリカのワシントンにある議会議事堂に向かった。日本でいう国会議事堂みたいな建物だ。そこの建物にある庭で演説を行うらしい。ちなみにホワイトハウスからそう遠くない位置にある。
現場には演説を行う為の足場が設けられており、周りにはシークレットサービスや普通の軍人、警察、そしてボディガードが多数いる。既に待機している記者や演説を見に来た一般人の姿も多数見られる。
オレの格好はあまりにも場違いで恥ずかしかった為、すぐにマスクを付けて顔を隠す。一人だけコスプレしているみたいでマジで恥ずかしい。ボディガード、記者、一般人を含め、その場にいる誰もがオレの事を見ていた。
「ウルシハ騎士団長、いやケイジ。私の斜め後ろで待機を」
ガブリエル大統領、いやお義父さんにそう言われて大人しく後ろで待機する。辺りを確認したところ、あまり高い建物は近くにない。大統領の演説によく使われている場所だからなのか、狙撃防止の為にそうしているのかもしれない。
とはいえ、狙撃できそうな場所がない訳ではない。議会議事堂の斜め前、その左右どちらにも高さ10メートル程度の建物がある。距離でいえば500メートル程か。逆に考えれば、そのどちらかしか狙撃できそうなポイントは見当たらない。
遠目に見えたが、スナイパーライフルを持った軍人がその建物の屋上で待機していた。オレの視力ってこんなに良かったっけ? いや、これもオメガの力かもしれない。
あとは民衆の中からハンドガンで撃ったり、爆弾を投げたりする程度か。そのぐらいなら何とかなりそうだな。
オレは他のボディガードを真似て腰の高さで腕を前に組みながら、警戒態勢のまま演説が始まるのを待った。




