063.サイコキネシス
ミカエラを送った後、自室に戻って未だに眠っているクーナさんを起こすためにキスしてみる。が、全く起きないどころか、両腕と両足をオレに絡めてベッドに引きずり込んだ。ちなみに彼女は今、裸だ。全裸だ。
「ちょっとクーナさん!」
何度も一緒に寝ていたから知っているが、この人は朝に弱い。かなり弱い。起こしてから1時間はベッドから降りない。そんな彼女が今、オレの事をクモの様に抱き締めているのだ。
一体どうしたものか・・・。と考えてみるが、このまま惰眠を貪るのも良いかもしれない。
邪な考えが思い浮かぶが、昨夜頑張ると自分自身に誓ったからには、そんな事をしている暇はない。彼女の拘束から体をねじって少しずつ脱出する。そして毛布を彼女に掛けて部屋を後にした。
向かう先はコマンダーの元。目的があった。昨日の今日だが、新たな力を手にする為に。
研究室でオメガの研究をしているのか、コマンダーはそこにいた。
『待っていた』
「まるで、オレが来るのが分かっていたみたいだな」
『君の行動パターンは極めて単純だからな』
「オレが単純なんじゃない。お前がオレの事を好きだから行動パターンを解析したがるんだ」
『・・・いや、君が単純なんだ』
たまには言い返してみると、コマンダーが言いよどむ。機械のくせに人様に口で勝とうなんて百年早い。
『次はこれの力が欲しいと言っていたな』
コマンダーがいるガラスケースの前に立つ。その中にいるのはクトゥルフ。
「ああ。剣を持ちながら遠距離攻撃できる術が欲しい」
『単純だが、合理的だ』
コマンダーが何も合図を送ってきていないにも関わらず、部屋の隅にいたのか、アンドロイドが1本の注射器を持って来る。注射器には黄色の液体が入っていた。
『抽出したクトゥルフの因子だ。君の脊髄か血液に投与すればすぐに適合するはずだ』
「そんな簡単にいくものなのか?」
『いや、普通の人間であれば数億分の一程度の確立でしかオメガ因子に適合しないだろう。だが君は、全てのオメガ因子に適合する事ができる。だから以前に人間なのか疑わしいと言ったのだ』
「すげぇ確立だな。・・・宝くじ買ったら当たるかな?」
『全く・・・』
オレの一獲千金の夢をため息をついてバカにする。金は大事だろ。退役後はニートになるかもしれないんだから。そういえばオレの給料ってどうなっているのだろうか? 今度ガブリエル大統領に聞いてみよう。
『それと注意点が一つ。アンラ・マンユの因子を適合させた時にも言ったが、オメガ因子をその身に宿すという事は、段々と人間ではなくなるという事だ。肝に銘じておいてくれ。それと――』
「ん?」
オレは会話の途中で既に自分の首に注射器を刺してその中身を投与していた。人間じゃなくなるっていうのが今一実感が湧かないけど、これでオレも超能力者だ。
喜ぶオレとは裏腹に、コマンダーが頭を左右に振っていた。時には合理的な判断ではなく、直感を信じたまえというオレの教訓を伝えたい。良い結果になった試しはないけど。
投与して数秒後、体に異変が生じる。脳みそが焼ける様に熱くなったのだ。
「ぐぁあああああああああっ!」
頭を押さえて蹲る。頭の内側だけ焼かれている様に。
『すぐに収まる。・・・はずだ』
「おまえぇぇぇええええっ! 先に言えよっ!」
『言う前に君が投与したんだ』
確かに何か言おうとしていたコマンダーの話も聞かずに投与したのはオレだ。オレが悪い。いや、オレは悪くねぇ! コマンダーが全部悪いんだ!
「ぐぉおおおお・・・。はぁ・・・はぁ・・・」
およそ3分程度でその痛みが消えた。乱れた呼吸を整え、他に体の違和感がないか確認する。
『大丈夫か?』
「問題、なさそう」
肩で息をしながら答える。
『では早速試してみるとしよう』
という訳で何もないただ広いだけの倉庫に移動する。そこには多数の空のコンテナが置かれていた。
「準備万端だな」
『ここは元々試作型ソルジャーを保管していた場所だ。試作型の量産は停止した為、今は使われていない』
なるほど。既に試作型ソルジャーもアップグレードされてプロトタイプは既に用済みとなっている。
『あのコンテナも破壊して構わない。溶解して再利用するつもりのものだ』
「オーケー。なら遠慮はしない」
サイコキネシスが使える様になった『はず』のオレは、コンテナが浮き上がるイメージをしつつ手を向けてみる。そして息を止めて、力む。これがサイコキネシスを使う方法かは知らないが。
「むむむむ・・・」
だが、一向にサイコキネシスは発動しない。魔法の才能もなかったし、オレは遠距離攻撃とは無縁なのかもしれない。
『脳波に変化は見られない。異能型の力は人間には扱えないものなのか・・・』
そんなはずない。再生の力だって使えたんだ。異質さでいったら同じぐらいだろう。
イメージの仕方が違うと考え、次は自分から見えない手が伸びているのをイメージしてコンテナを移動させてみる。
ギギギギッ――
少しだけコンテナが動いた。気がした。
「お? こうか?」
次は右手を振りかぶって、殴る動きをする。サイコキネシスの手もそれに連動する様に。すると、鈍い音を響かせながらコンテナがひしゃげ、吹き飛んでいく。
「おお!」
巨大な手をイメージする事だ。それこそサイコキネシスの使い方なのかもしれない。




