064.超能力者
オレがサイコキネシスの練習をしていると、コマンダーが脳波に変化がないのかを仕切りに確認していた。
『ふむ。脳全体が活性化しているな。それに大脳皮質に妙な動きが視られる』
ダイノー・・・何? 聞いた事のない単語を話すコマンダーを横目に、オレはアダマントソードを投げ捨て、それを引っ張る練習をする。剣を落としてもこれで回収できる。そう思って剣を引き戻そうとすると、力加減を誤って高速で回転しながら飛んできた。
「よっと」
とは言え、今のオレならば難なくキャッチできるが。
『念動力の使い方だが、おそらく君の使い方は間違っている』
「え? 嘘?」
『クトゥルフがその力を使用する時は、空間を捻じ曲げていた。だが、君の場合は見えない手で物理的に殴っているだけだ。想像力が乏しいのかもしれない』
「うるさい」
確かにこの力を使ってブラックホールを作るのは、多分オレには無理だ。試してみるが、息を止めて力んだせいで血圧が上がって顔が赤くなるだけで終わる。
想像力なのか、具体的なイメージをする必要があるのかは分からないが、戦闘中に咄嗟に使うとなれば想像しやすいこの手の方が実用的だろう。
『他の因子も試したいが、体に異常がでないか経過観察してからを薦める。後でいきなりオメガになっては困るからな』
「あんまり不安になるような事言うなよ」
『突然変異していきなりオメガになる可能性もゼロではない』
「不安になるからやめろよ!」
本当にコイツは! 絶対に分かっていて言っている。ヤなヤツだ。
ちなみにサイコキネシスで空を飛べないかやってみたが、出来なかった。サイコキネシスの手で自分を平手打ちして吹き飛ばす事は出来たが、全身が痛い。数秒で再生するが、これはもう二度とやりたくない。
それと繊細なコントロールも出来なかった。物を持ち上げたり、ゆっくり動かしたりは出来ない。基本的に出来るのはぶん殴るか、強く押すか引くかだけ。
まあ、念願の遠距離攻撃が出来るようになったんだ。良しとしよう。
これで晴れてオレも超能力者だ。
昨日に続いて再び健康診断をしたが、異常は全くなしだった。
『何故人間の状態のままを保てているのか不思議だ』
「オレが選ばれし者だって事なんじゃないか?」
ユグドラシルにだって選ばれたし。
『否定はしない。アールヴも不思議な生物だが、君はもっと不可思議な存在だ』
「そう褒めるなよ」
『褒めていない』
まあ、オレも自分自身が何故ここまでオメガ因子に適合したり、ユグドラシルから加護をもらえたりしているのか分からないが、分からない事を考えても意味はない。その内いつか分かるだろう。
ユグドラシルも、いずれ分かるみたいな事を言っていた気がするし。
それとアールヴが不思議な生物だというのは、オレも昨日実感した。アールヴはユグドラシルから生まれる為、雌雄という概念がない。つまり男が存在しない。だというのに、昨日クーナさんとそういった行為が出来てしまったのだ。
おそらくアールヴはユグドラシルから生まれる以外にも、他種族との繁栄が可能なのだろう。オレとしては好都合だけど。
ただそれは、アールヴなりの生存戦略なのかもしれない。という事は、いつか世界樹が枯れてしまう可能性も考えられる。
その為に、ユグドラシルはオレに種を預けたのだろうか――
答えは分からないが、もしそうだとしたらオレがアールヴの命運を握っているのかもしれない。・・・責任重大過ぎない?
あくまで可能性の話だと割り切り、オレは部屋に戻った。そろそろ彼女が目を覚ましている頃だろうと思っていたが、それは半分だけ合っていた。
彼女はベッドの上で寝ぼけながら裸で座っていた。綺麗なその体に視線が釘付けになってしまう。一方彼女は舟を漕ぎながら睡魔と戦っていあるが、かなり劣勢に見える。
とりあえず寒そうだから毛布を体に巻いてあげる。そして肩を揺さぶるも、起きる気配はない。
もしかしたらまともに眠るのは久々なのかもしれない。その原因は間違いなくオレだろう。ならもう少し泣かせてあげるか。
そう思い彼女の体をベッドに寝かせると、すぐに寝息が聞こえてくる。
「おやすみ」
彼女の額に軽くキスすると、笑顔になる。もしかしたら狸寝入りかと疑うも、丸くなって眠るのを見るに違う様だ。
気持ちよさそうに眠る彼女を起こさない様に、オレは部屋を後にする。
どこに行こうかと悩んでいると、空腹感に襲われる。朝食を食べていない事に気が付き、食堂に向かう。
時刻は既に昼頃。他の隊員達の姿が見える。美味しいとは言えない食事が盛られたトレイを持って、どこかに座ろうとしていた所、見覚えのある女性隊員と目が合った。
「騎士団長殿!」
彼女は食事が乗ったトレイを左手で持ったまま、右手で敬礼する。オレも返すと、そのやり取りを見ていた他の隊員達も続いて敬礼する。
「なおれ。食事の場だ、オレの事は気にしなくていい」
一応これでも立場はかなり上の方なので、それを知っている隊員達はしっかりと敬礼してくる。あまり堅苦しいのは好きじゃないけど、軍隊とはそういったものだろう。
「騎士団長殿もお食事されるのでしたらご一緒にどうですか?」
彼女、ベルリンで子供を保護し、先のアールヴヘイムでの戦闘でも顔を合わせた女性隊員が誘ってくれたが、ここである事に気が付いた。
彼女の名前ってなんだろう――




