057.姫の口付け
瞬く間に1体のアンラ・マンユを倒したオレに、残りの3体が跳びかかってきた。数メートルジャンプし、頭上から同時に攻撃を仕掛けてくる。ご丁寧に3体共同じ高さに跳んでいた。
それならっ! とオレはそれを迎え撃つ為、剣の力を解放する。
「魔剣解放っ!」
刹那、アダマントソードの刀身が15メートルに伸び、その重さは500キログラムに達する。それを両手で握り、3体のアンラ・マンユ目掛けて全力で振るう。
アンラ・マンユが抵抗しようと剣で防ぐも、圧倒的な質量を誇るその一撃を、体の軽いヤツらが防げるはずがない。防御の上からヤツらの頭部を粉砕する。
今までアダマントソードの刀身を伸ばした攻撃は、あまりの重さから振り下ろす事しかできなかった。過去にゴライアスを倒した時もそうだ。
だが、今は上方向への薙ぎ払いが出来る程、力が増している。これがオメガ因子の力なのかと、オレ自身も驚きを隠せない。
およそ10秒で4体のアンラ・マンユの撃破に成功。以前のオレとは比べものにならない強さになっているのは明らかだ。
剣を腕輪に戻してクーナさんに視線を向けると、オメガを瞬殺した事に驚いている様だ。口を開けたままこちらを見ていた。
「ほ、本当にケイジか!? 髪の色も変だし・・・」
「えっと、細かい事は後でコマンダーに聞いて」
オメガ因子を結合させたなんて言ったら絶対に怒り狂うのが目に見えている。怒りの矛先は終始コマンダーだけに向けておいてもらわないと。クーナさん怒ったら手が出るタイプだし。まあ、殴るのはコマンダーだけにだと思うけど。
「今は他の人達を助けないと」
「少しだけ待ってくれ」
他の人達の救出に向かおうとするも、止められてしまった。どうしたのだろうかと疑問を抱くと、クーナさんはオレのマスクに手を掛けて取り外した。そしてオレの頬に触れる。彼女の温もりが頬を通して伝わってくる。
「ああ・・・本当にケイジなんだな・・・」
「信じてなかったの?」
「実はケイジそっくりのアンドロイドか疑ってな」
「・・・あいつならやりそう」
『その様な非効率的な事はしない』
盗み聞きしていたコマンダーから否定の言葉が飛んでくる。お前はもう少し客観的に自分を見た方がいい。
頬に触れているクーナさんの手が震えている。その手を握り締めると、彼女の瞳から涙がこぼれる。
「ずっと・・・会いたかった・・・」
「クーナさん・・・オレも会いたかったです」
感動の再会は後にしようと思っていたのに、彼女の顔を見ると想いが溢れてくる。目尻が熱くなり、涙が溢れそうになる。
「もう少しだけ、このまま・・・」
クーナさんはそのままオレの首に腕を回す。抱きしめられると思い、オレも彼女の背に腕を回すと予想外な事が起きた。彼女の顔が、そのままオレ目の前に迫り、そして――
チュッ――と軽くキスされた。
・・・ふぁ? 一瞬何をされたのか分からず、思考が停止する。つい先程も同じ事があった様な気がする。気がするじゃない、あったんだ。
初めてキスを経験したその日に、オレの経験人数は2人になってしまった。天使の加護で無敵のはずなのに、今日死ぬ様な気がしてきた。
それと彼女がオレに向けている好意は、男女のものではないと思っていた。やたらと子供扱いされている事から、歳の離れた弟を可愛がる家族愛的なものだと思っていたのだ。だが、どうやら勘違いだった様だ。
彼女は頬を赤らめながら、笑顔を見せる。
「ニシシ。これがキスか。悪くないな」
無理して笑っているせいか、いつもとは違う笑い方。いたずらした子供みたいなその笑顔が、とても可愛くて愛おしく感じてしまった。
何この生き物? 可愛すぎるだろ。2人してオレの事殺す気か。・・・死ぬ前に遭遇したあの修羅場を再び経験しそうな予感がする。
「ク、クーナさん・・・」
こんな美女からキスされて嬉しくない訳がないが、先にミカエラとしてしまった以上、罪悪感を抱いてしまう。
不意に頭と心の中にモヤが掛かる。
オレはミカエラが好きだ。いつもオレをからかっては笑っているあの笑顔は反則的だ。彼女の為に慣れない紅茶の入れ方を勉強したのは彼女に喜んで欲しかったから。何より、いつもからかわれてばかりいるオレだって出来る男なんだってアピールしたかった。要は彼女の前では情けない男ではなく、カッコいい男でありたかったのだ。そう思うぐらい、彼女の事を考えていた。そして彼女の事を想っている時は、いつも心臓がドキドキして、自分が自分じゃないと錯覚してしまう。それぐらい本気で人を好きになったのは初めてだった。オレはミカエラが好きだ。
それと同じぐらいクーナさんの事も好きだ。彼女がいなければ、オレはここにはいなかっただろう。文字通りの意味で。死にそうになった時に幾度となく救われたし、初めての出撃で心が壊れそうになった時にも一緒にいてくれた。彼女がそばにいると心が安らぐ。ずっと一緒にいたいと思っている。そして彼女を守りたいと思ったからこそ、オレは強さを求めた。命の恩人という立場の彼女と、対等になる為に。彼女の為ならば喜んで死地に飛び込もう。彼女の事を想えば、たとえ絶望的な状況でも戦える。オレはクーナさんが好きだ。
けど2人の女性を同時に好きになるなんて、普通じゃない。優柔不断だし、その思い自体不純だ。なによりこの思いは彼女達を苦しめる事になる。だからどちらかを選ばなければならない。
そうなった時、オレは――




