056.再会
輸送船での移動中、顔を真っ赤にしながらコマンダーに文句を言う。
「お前・・・次からは他の人が通信を聞いている時は先に言えよ」
『聞かれて困る様な事を言わなければいい。私の落ち度ではない』
「ったく。ヤなヤツ」
おかげで大恥をかいた。困った球体だ。もっと文句を言いたかったが、今さらこの球体に何を言っても無駄だろう。それよりも、オレはある事に気が付いた。
「そういえば、自分の事『我々』じゃなくて、『私』って言う様になったんだな」
そう、コマンダーの一人称が変わっていたのだ。
『今の私は「個」だ。今まではオートマタ全体と意識を共有し、全てが私で、その内の一部が私でもあった。だが、今は独立して完全に私だけとなっている。無論、今まで同様、他の素体に意識を移す事も可能だ』
・・・一体何を言っているんだ? その話の内容が全く理解できず、チンプンカンプンなオレはとりあえず一つだけ口にする。
「まあ良く分からないけど。とりあえず自分の事我々っていうのバカっぽかったし、今の方が賢くみえるから良いと思うぞ」
『・・・なるほど。君のおかげで新しい感情を学習する事が出来た。礼を言う』
「ん? どういた、しまして? ちなみに何の感情?」
『殺意だ』
「物騒だな!?」
そんなオレ達のやり取りを聞いていたのか、ミカエラの笑い声が通信機から聞こえた。彼女が喜んでくれたなら何よりだ。
その後、コマンダーが戦況を説明してくれた。
『現在アンラ・マンユ6体は散らばっており、人間とアールヴが交戦中。残りの4体は彼女が一人で押さえているが劣勢だ』
「クーナさんが? ならすぐに彼女の元に向かってくれ」
『既に彼女の頭上、上空500メートルの地点だ。これから降下する』
目的地には着いていた様だ。おそらくコマンダーもオレが彼女を最初に救うと考えていたのだろう。それか、今一番危険な状況なのが彼女だから最優先で救うべきだと判断したのかもしれない。
輸送船が着地するまで30秒程時間を要するだろう。ただ、あの白いオメガ、アンラ・マンユを4体も相手にしていては数秒でも命取りとなる。着陸を待っている猶予はない。
「ハッチを開けてくれ」
『まだ地上まで300メートルある。飛び降りればただでは済まない』
「ま、そこは上手くやるよ」
『・・・了解。ハッチを開ける』
コマンダーの言葉と共に輸送船の後部ハッチが開く。船の中に吹き荒れる暴風が、髪とコートをなびかせる。ハッチの縁に立ち、下を眺める。現時点で高度200メートル。地上での戦いの様子がはっきりと見えた。
その中でも一際強く輝いている青い光が見える。そんな彼女がユグドラシルの根で交戦しているが、決定打を与えられずにジリ貧な状況だ。このままでは危険だとすぐに分かった。
「・・・っし。行くか」
オレは一歩踏み出し、ハッチの縁から飛び降りる。高度200メートルから、パラシュートもなしに降下。着地に成功する確信がある訳ではない。けど恐怖はなかった。脳内にあるのは、ただ彼女を救う事だけ。
段々と迫る地面。それと彼女と、彼女に迫る4つの白い影が見えた。オレは体を地面と垂直にして、加速する。そして――
ズダァアアアアアンッ――
彼女とアンラ・マンユの間にオレは着地、いや着弾した。両方の拳と両足を同時に地面に叩き付け、着地の衝撃を相殺する。
まあ、そんな簡単に衝撃が消える訳もなく、全身と内臓が激痛に襲われる。だが、その痛みはすぐに引いていく。おそらくこれが、アンラ・マンユの再生の力だろう。
オレは立ち上がり、アンラ・マンユを見据える。突然上空から落下した物体を警戒し、既に後方に下がっていた。相変わらず賢いヤツだ。
右腕に装備しているブレスレットを変形させ、アダマントソードを握る。
「ケイジ・・・なのか・・・?」
不意に後ろから声がした。背中を向けたまま首を動かし、視線だけを彼女に向ける。そこには驚いた表情の彼女が。まるで、死人が生き返ったかの様に。
「助けに来たよ。クーナさん」
いつもはオレが助けられる立場だったけど、今回はオレが助けるんだ。かつてオレを殺したアンラ・マンユに視線を戻す。
彼女はゆっくりと近付き、オレの背中に額を当てる。感動の再会をしている暇がない事は、彼女も気付いている。お互いに抱きしめたい気持ちを抑えた結果、彼女はその行為で思いとどまったのだろう。
「本当にケイジなんだな?」
「うん。ただいま、クーナさん」
「おかえり・・・おかえり、ケイジ」
彼女のすすり泣く声が聞こえる。オレが不甲斐ないばかりに彼女を泣かせてしまうのは、これで最後にする、とそう胸に刻む。
このまま彼女とずっと話していたいが、目の前にいるオメガ共がそれを許さない。4体の内の1体が斬りかかってきた。
オレは咄嗟に彼女の肩を押し、アンラ・マンユの右腕の剣をアダマントソードで弾く。剣を弾かれ、ヤツの胴がガラあきになる。隙を晒し、体勢を立て直すよりも一瞬早く、その首を剣で薙ぎ切断する。
頭部を破壊しなければ再生されてしまう為、胴体から離れたその頭目掛けてすぐさま剣を振り下ろして真っ二つにする。
「まずは1体目」
残りは3体――




