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黎明を灯す光 ~神に至る道~  作者: Mr.Z


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053.オメガ因子

 彼の遺伝子情報の収集は既に終わっていた。心臓を貫かれ、バエルを討伐したデータを解析する為に、体の隅から隅まで調べ尽くしたのだ。


 そしてそれはアンラ・マンユにも同じ事が言える。その再生能力の謎を解明する為に、その体の構造から遺伝子情報も調べていた。アンラ・マンユだけではない。全てのオメガが、それらの特性を把握する為に解剖され研究されている。


 コマンダーはマザーから許可を得て、全システムの処理能力を彼の為に行使する。防衛システムすら解除し、無防備になった母艦。今攻撃されればこの船は簡単に落ちるだろう。それが例えオメガであろうと、人間であろうと。


 彼の塩基配列、要はDNAの一部にアンラ・マンユの因子を結合させる為、様々なパターンで結合させた場合の予測結果を何千億通りと計算する。もしかしたら拒絶反応を起こしたり、結合が失敗して彼の塩基配列が崩壊する可能性がある。つまり失敗は死を意味する。


 彼の命を危険に晒される事になる為、最善を尽くす必要がある。この作業がどれだけの時間を要するかは分からない。だが、それでも絶対に救って見せると構えるコマンダーに対して、意外な結果が出る。


 何千億と計算した結果、その全てが同じ答えを導き出した。『成功』、と。


『こんな事・・・あり得るはずがない』


 有機生命体にはそれぞれ決まった塩基配列、つまり二重螺旋構造の遺伝子コードが存在する。その配列を変える事はおろか、他の生命体のものを結合させる事は非常に難しい。数え切れない程のパターンの中から正解を導き出す必要がある。


 それに対して、彼『漆葉 啓司』は全てのパターンにおいて結合が成功する結果となった。もしかするとそれは、アンラ・マンユの特性なのかもしれないという可能性も浮上する。


 コマンダーがその予測不能な事態に戸惑っていると、不意に医務室の中に人間が一人飛び込んできた。その人間はポッドから出て、手術台の上に乗せられている彼を見て、蘇生が成功したのかと喜びを露わにする。


「ミスターコマンダー! 彼が起きたの!?」


 ミカエラは彼に駆け寄るも、すぐにそれが勘違いである事に気が付いた。肩を落とし、がっかりする彼女に慰めの言葉を掛けたりはしない。コマンダーにとって、そんな事よりも人間である彼女がこの場に現れた事の方が喜ばしかった。


『ちょうど良い所に来た。君の体液を採取させてくれ』


「た、体液!? いやよ!」


 体液を寄越せという言葉に嫌悪感を抱き、彼女は否定するも、コマンダーはそれを無視して、体の側面から内部に収納していた腕を剥き出しにし、彼女の手を取った。そしてその指先をメスの様な鋭い刃物で薄く切る。


「いたっ」


 そしてその指先からにじみ出た血液を一滴だけ取り、小さなシリンダーに入れる。そのシリンダー内の血液から、遺伝子情報を読み取る為に箱状の機械に投入する。


 一方ミカエラは、しかめっ面で切られた指先を口に含んで止血していた。


「それで、私の血を何に使うの?」


『ただ彼が特別な存在なのかを確認するだけだ』


「特別な存在?」


 コマンダーが言わんとする特別な存在というものが何かは分からないが、それが彼を助ける為の手助けになると確信し、それ以上はとやかく言わなかった。


 彼の遺伝子情報と同様、彼女のも調べ、アンラ・マンユの因子を塩基配列を結合させた場合の結果を予測する。彼と同じ結果となれば、他の生物と融合できる力はアンラ・マンユの特性とも言えるだろう。だが、もしそうはならなければ、彼が特別だという事になる。


 そしてコマンダーの予測通り、出てきた結果は全て『失敗』と出た。


『やはり・・・彼は特別だ。世界樹が彼を見初めた理由はコレなのか・・・?』


「ミスターコマンダー。一人で盛り上がっていないで、私にも分かる様に言ってもらえる?」


 黙っていたミカエラだったが、独りで呟くコマンダーに説明を求めた。コマンダーは素直に、それに回答する。


『・・・私は彼の治療の為、オメガの因子を彼の遺伝子に組み込む事で蘇生を試みる事にした』


「・・・え? オメガの因子? そ、そんな事許す訳ないじゃない! それに人体実験なんて・・・もし彼に何かあったらどうするつもりなの!?」


 一瞬、コマンダーの発言の意味が分からず、ミカエラの思考が停止したがすぐにその事を問い詰めた。それにもし成功したとして、その時に彼は『人間』でいられるのだろうか。そんな疑問も生まれる。


『その為に、因子を彼に結合させた場合に問題が起きないか確認していた。結果は全くの問題なし。私の計算が間違えている可能性や他の要因も考えられる為、君の血でも計算した。その結果は、全てのパターンにおいて君は確実に死亡する』


「勝手に私を殺さないで。とにかくケイジは大丈夫、って事?」


『肯定。失敗する可能性は限りなくゼロに近い。成功した場合、彼が目を覚ます可能性も高いと推測する』


「本当に大丈夫なのよね?」


『もし何かあっても、彼を死なせる様な真似はしない』


「・・・そう。なら信じるわ」


 ミカエラは口を閉じ、覚悟を決めて見守る事にした。そしてコマンダーは、彼にアンラ・マンユの因子を投与する為、シリンダーを注射器に装填し、そして脊髄に注射針を刺す。後はプランジャーを押し、中の液体を注入するだけで、彼は生き返る。


 そう計算結果が出ているにも関わらず、コマンダーの手は止まったままだ。


 もし計算に狂いが生じていたら? アンラ・マンユが彼に寄生する為の罠だとしたら? これでもし彼が死んでしまったら? コマンダーの中で失敗したケースのビジョンが浮かぶ。瞬時に、それが人間が感じる不安や緊張だという事を悟る。


 彼は、今までこの様な感覚に抗いながら戦ってきたというのか――


 初めて人間の気持ちを感情を自身で感じる事ができ、改めて今も眠る彼が尊敬に値する存在だと気が付く。


『さあ、アルファ。自分を信じて進みなさい』


『マザー・・・。君を絶対に救ってみせる。我が友よ』


 コマンダー、いやアルファは、その手をゆっくりと動かした。


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