046.双子の兄妹
弾幕の雨が止み、静寂が訪れる。白いオメガの生死を確認する為、オレはヤツの元へ近付く。
広い道路が銃弾の雨によって抉られ、景観はもはや戦争跡地の様に無残なものとなっていた。抉られたアスファルトのその中に、身を小さくして隠れている白いオメガ。
やはり生き残っていたか。正直死んではいないだろうとは思っていた。だが、瀕死の状態に陥っている。
穴の開いた頭部からは黒い血液と思わしきものが流れている。そして左足は粉々になったのか、再生していない。辛うじて体に繋がっている左腕と右足も再生していない様に見える。
どうやら頭部を破壊したら、再生能力が失われるのかもしれない。
止めを刺そうと、剣を振り上げた瞬間、ヤツが急に動き出した。さすがに瀕死の状態で機敏に動く事は想定していなかった為、一瞬反応が遅れてしまう。
ヤツはそのまま倒れた木々の間を器用に駆け抜けていく。慌ててヤツを追おうとする隊員達を制止し、待機を命じる。遅れてヤツを一人で奴を追い掛ける。
しばらく進んだところで、木々の間から飛び出して近くの建物に入っていくのが見えた。追ってその建物に入ると、そこがカフェだと気付く。
喉でも渇いたのか、それとも再生に水が必要なのかも分からないが、何か目的があって入った様に思える。カフェの中に慌てて入り、ヤツの姿を探す。
するとカフェの奥、テーブルで築かれたバリケードを破壊し、その先にあるものを狙っているのを察する。それが何かは分からないが、待ってやる道理はない。
駆け寄り、その胴体に斬撃をお見舞いするも、剣で防がれる。野球バットをフルスイングする構えで放ったその一撃はそのままヤツの体を吹き飛ばす。外観を眺める為に設置された大きなガラスを割り、ヤツの体は外まで転がっていた。
「た、たすけて」
不意に声が聞こえた。先程のテーブルのバリケードの奥を見ると、子供が二人いたのだ。歳は13か14ぐらいの双子。男の子と女の子が一人ずつ。涙を流しつつも、兄と思わしき男の子が女の子を抱きしめながら守っていた。
避難していないのか!?
驚きつつも、この子達をどうすべきか考える。あの白いオメガを対処しながらこの子達を保護するのは難しいだろう。オレはすぐに隊員に連絡した。
「民間人を二人発見。保護してくれ」
隊員が来るまで、時間稼ぎをする必要がある。オレはマスクを一度外し、剣を置いてその双子に近づく。
「妹を守ったんだな、よく頑張った。すぐに兵隊さんが助けに来てくれるから、もう少しだけ我慢できるか?」
そう言って二人の頭を撫でてやると、男の子は涙と鼻水を垂らしながら頷いた。
こんな子供も頑張っているんだ、オレも頑張らないとな。そう奮起し、マスクを付けて剣を持ち立ち上がる。
・・・ってまだオレと2、3歳しか離れていないんじゃないか? 先月16歳になったばかりだし。・・・まあ、いいか。
子供を保護したが、その子たちが自分と歳があまり変わらない事に気が付く。また妹を守っている姿を見て、不意に自身の妹である沙希の事を思い出し、懐かしい気持ちになる。だが、今は目の前の敵に集中しなければ。
オレは外にいる白いオメガに視線を向ける。ヤツの目的は、どうやらこの子供たちのようで、その場から逃げようとしなかった。口も無いのにどうやって捕食するのかと、疑問を抱いていると、ヤツの顔に下部に黒い線が入る。それが上下に開くと、中にはいくつもの白い牙が見えた。
キィイイイイイイイイイェェエエエエエエエッ――
初めて、ヤツが口を開き、耳が痛くなる程の甲高い叫び声をあげた。ここに来てそのような行為をする意味は、おそらく追い込まれている証拠だろう。体力回復の為の食事もできず、満身創痍の状況で、ヤツに出来る抵抗が威嚇ぐらいなのだろう。
ただ、窮鼠猫を嚙むという言葉がある。死に際に何をしてくるか分からない為、油断はできない。
オレは割れたガラスから外に出て、白いオメガと対峙する。ようやく、この戦いが終わる。そう予感した剣を構えて前に出た。
それに対し、ヤツは左腕を伸ばして鞭の様に振るう。右腕の剣程硬くない腕を斬るのは難しくない。高速で迫る鞭を剣で切断し、次は胴体に向かって剣を薙ぎ払う。
片足を失ったせいで機動力がなくなるのと同時に、動きがぎこちなくなり、剣を避ける事は出来なくなったようだ。ヤツはそのまま右腕で剣を防ぐ。踏ん張る事もまともに出来なくなってしまったその体は、簡単に宙を舞う。暖簾に腕押しとはこういう事だろうか。
だが、左腕も切断し、確実にダメージを与えられているはずだ。
「うわぁあああああああっ!」
そう思っていたはずが、子供の悲鳴が聞こえた。まさかと思い、振り向くと、切断された腕が地面を這い、子供たちに接近していた。
「クソッ!」
ヤツの腕が切断されても動くという事を忘れていた訳ではなかった。ただ、頭部も破壊されているし、更にそれが子供たちを襲うのは予想外だった。
オレは咄嗟に子供たちに駆け寄り、這っているその腕に剣を刺す。イカの足を串で刺した見た目になってしまったが、これで子供たちは大丈夫だろう。それにしても救援はまだかと文句を言いたくなる。
ヤツの左腕を切り刻み、再生できない様にして捨てようとした時、ヤツが子供たちに向かって駆けだした。その間に体を割り込み、進行を妨害する。
「行かせる訳ないだろ!」
ターゲットを子供たちからオレに切替え、振るわれた右腕から放たれた剣撃を受け止める。だが、ヤツはオレの剣を受け止めながら刃を滑らせ、距離を詰めてきた。
それは、先程オレが肘打ちをする為に使った技術だという事に一瞬遅れて気が付く。
懐に入り込まれたその白い体から距離を取る為、剣のグリップをヤツに向ける。そして柄の先端をヤツの顔面に叩き込む。この技はまだ見せていない。それに腕が剣になってい柄がないこいつには真似できるものでもない。
だが、踏み込めずに威力が半減されたその一撃はヤツの体を仰け反らせるまでには至らなかった。あろうことか、ヤツは顔の近くにあったオレの右腕に噛み付く。口が生えたのを失念していた。
肉を裂かれ、激痛が襲う。咄嗟に左手で拳を作り、ヤツの額目掛けてそれを突き出す。表面は固いが、中身は柔らかい様な鈍い感触が手に伝わる。何とか引き剝がそうと取った行動だったが、悪手だった。
ヤツは腕を突き出したオレの左脇に剣を刺し込み、それを振り上げた。かつて、オレがこの白いオメガの左腕を切断した様に。
スパッ――と抵抗もなく振り上げられたヤツの右腕。そしてオレの左肩からは、あるはずの腕ではなく、代わりに大量の血液が噴き出していた。




