044.特殊型オメガ アンラ・マンユ
作戦が終わったはずなのに、銃声が聞こえる。観光名所であるなんちゃら門を眺めていたオレは、すぐにその現場に向かった。
一部の歩兵部隊がその現場付近を取り囲んでいた為、現場はすぐに分かった。
「何があった?」
「分かりません。部隊の一人から卵の様なものを発見したと連絡があり、それの破壊を命じました。しかしその後、連絡が取れておりません」
つまり何が起きたのかも、何がそこにいるのかも分からない、と。無理に追わずに待機していたのは正しい判断だと言えるだろう。先行して被害者を出すよりはずっと良い。
足の遅いソルジャーを調査に向かわせるには時間が掛かるから、オレを待つのが最適だと判断したのだろう。
「分かった。そのまま警戒態勢を維持するんだ」
隊員達には待機を命じる。とりあえず自分だけで見に行こう。オレは剣を手に、隊員達の射撃によってなぎ倒された森林公園の中に入る。すぐ近くに歩行者の為の道があり、その脇に白い卵の殻を見付ける。
それは初めて見るタイプの卵だった。新型なのか、特殊な卵型ポッドなのかは分からない。その付近には、二人の歩兵の亡骸がある。一人は頭部を失い、一人は心臓を貫かれている。頭のない亡骸の首の断面から、バエルの存在を疑う。
だが、もう一人の亡骸に違和感を抱く。バエルの鎌であればこんな心臓の貫かれ方はしない。経験者だから分かる。この傷はどちらかと言うと、斬られた傷ではなく、抉られている。これをやった犯人がバエルではないと確信する。
ならばその犯人は何かというと――
ガサガサッ――
頭上から木の葉が擦れる音がする。オレはそちらに視線を向けるよりも早く、剣を振り上げた。
ガキンッ――
すると、剣が硬い何かに接触し、火花を散らす。アダマントソードの斬撃を防いだ事から、相手の力はかなり強いのが分かる。押し負けない様に力を込めていると、不意に剣が軽くなる。相手が退いたのだ。
近くに白い何かが着地する。身軽なのか、着地音は聞こえなかった。視線を向けると、それが本当にオメガなのか疑ってしまった。
今まで遭遇したオメガは、虫や動物をモデルに造られたキメラの様に感じていた。だが、目の前にいるのは原型の生物が全く分からない程、不気味な存在だった。
形は人間に近い。丸い頭があるが、目や口が見当たらず、顔が存在しない。腕と足が二本ずつの二足歩行。右腕は剣の様な形で、長さはアダマントソードと同じく1.5メートル程。あれでオレの剣を防いだのだろう。だが、体と左腕、両足は細く、その形はまるで木の枝だ。そして全身は真っ白。
音を発する事なく動くその身軽さ、オレの攻撃を防ぐその力、そしてこいつ専用の輸送ポッド。このオメガは、今まで遭遇したものと何かが違う。
オレは油断する事なく、警戒心を最大限に高めながら距離を詰め、剣を振るう。だが、この白いのは浮いているかの様な奇怪な動きで、滑る様に剣を躱す。
続いて剣を何度も振る。避けられ、避けられ、防がれ、防がれ、避けられる。
こいつは化け物だ。率直にそう思った。このスピードに付いてきて全ての攻撃に対処するなんて、今まで一度も経験した事がない。
隊員達の手に負える相手ではない。何としてでもここで倒さなければ。覚悟を決め、ギアを上げて再度攻撃する。
幾度となく攻撃を避けられる内に、不意にヤツが剣で反撃してきた。その攻撃を剣で防ぎ、刃を滑らせながら接近し、ヤツに密着する。そしてその顔面に肘打ちを叩き込む。この一撃は予測していなかったのか、避けられずにクリーンヒットする。
細身の分、体重は軽いのか肘打ちの衝撃でその体が宙を舞った。5メートル程後ろに吹き飛んだところで着地する。その顔面には丸い窪みが出来ている。
だが、その窪みはものの数秒で消えた。おそらく再生したのだ。肘打ちでもダメージが与えられるという事はその体は脆いが、それを補う再生能力を持っているといったところだろう。
いや、体を軽量化する為に防御力を捨てた、というべきか。バエルをも超える攻撃に特化したオメガ。
そんなものが今目の前にいるのだ。
「ははっ。生き残れるかな・・・オレ・・・」
乾いた笑いが出る。致命傷となる攻撃は避けるか防ぐかする代わりに、再生できると判断した攻撃は受ける。その動きから知能もかなり高い事が伺える。この化け物に勝てる未来が見えない。
だがそれでも・・・やるしかない、か。
気を取り直して再び攻撃を仕掛ける。止まる訳にはいかない。ここで止まれば、立ち向かう勇気すら消えてしまいそうだから。
いとも容易く攻撃を回避される現状に嫌気がさすが、先程の打撃を避けない習性を利用してみるか。
接近し、剣をひたすら振るう。隙が生まれるまで何度も。時折反撃されるも、何とかそれを躱し、再度密着できる距離まで詰める。そして左手でヤツの顔面に叩き込む振りをする。やはり打撃を避けるつもりはさらさらないのか、奇怪な動きが止まる。
その隙に突き出した左手でヤツの左腕を掴む。剣を左脇に差し込み、振り上げ腕を切断する。体から切り離された腕が、まるでトカゲの尻尾の様に、切られても尚オレの左手の中で暴れまわる。
このまま腕を離してしまったら体の元へ戻り再生するのではないかと思い、みじん切りにしようとするも、切断したはずの腕がその鋭利な先端でオレの顔を貫こうとしてきた。
「うおっ!?」
慌ててそれを避け、斬った腕を手放す。すると、腕は蛇みたいま動きで体の元へ戻っていき、そして元の位置に収まると何事もなかったかのようにくっついてしまった。
腕の刺突攻撃で、先程あった亡骸の心臓を抉り取ったのだろう。刃物で出来た傷ではなかったからな。という事は左腕だけではなく、両足にも気を付ける必要がある。
それにしても、弱点と思わしき頭部を破壊しなければ、こいつを倒す事は出来ないのだろうか? その細い体には心臓もなさそうだ。いや、もしかして頭に心臓があるのかもしれない。
今後の作戦も思いつかないが、何とか頭部に攻撃を当てなければ。それと、これは勘だが知能の高いヤツには、先程の手はもう通用しないだろう。
「マジでどうしよう・・・」
冗談抜きでどうしたものかと、頭を抱えたくなる。




