036.剣は銃よりも強し
トウテツの群れ。その先頭にいる個体が剣の間合いに入った瞬間、ラグナロクを振り抜く。鋭い包丁で鶏肉を切っている様な抵抗を感じるも、問題なくトウテツの体を両断する。
続いて後続のトウテツにも剣を振るう。剣の勢いを殺さない様、滑らかな動きでかつ迅速に。気付けば数秒で30体以上のトウテツを真っ二つにしていた。
無駄のない動きのおかげで、1秒に5回は剣を振るう事が出来る。
――いや、オレの脳の処理速度が遅いせいでそれしか振るう事が出来ないと言った方が正しいのかもしれない。
「もっと早く」
反応しろ。五感で感じてから脳が情報を処理するまでの時間を――
「もっと速く」
剣を振れ。アダマンタイトの筋線維が悲鳴を上げる程に――
「もっと疾く」
駆け抜けろ。全ての敵を倒すまで――
頭の中でイメージした動きと実際の体の動きを一致させる事は予想以上に難しい。プロのスポーツ選手でも、それが出来るのは超一流と呼ばれる極少数のみ。理想と現実はかけ離れているものだ。
だが、オレの中でそれが完全に一致した。体が面白い様に言う事を聞く。先程までとは違い、動きが更に洗練され、加速する。それに伴い、剣を振るう速度がどんどん上がる。秒間5回から6回、7回と増えていく。やがて、それは12回まで到達した。
案外、人間って体の使い方が下手な生き物なのかもしれない。最適化された体は、今までの自分の体とは別物に感じられる。その新感覚に高揚感を超えて全能感を覚える。
剣速が速い事からも、トウテツを一振りで複数体倒せるかもしれない。そうすればより早く敵を倒せる。早速試してみる為3体のトウテツを同時に斬る。今度はすんなりとトウテツを両断した。豆腐を切る様に、全く抵抗を感じる事無く。
秒間の撃破数が瞬間的に30体を超えるも、敵の数が少なくになるにつれてその数字も段々と少なくなっていく。トウテツが群れが疎らになってきた為、時間が掛かってしまう。
とは言え、15分も掛からずに5000体のトウテツの殲滅に成功した。
「はぁはぁ・・・」
最期の1体を倒した後、オレはトウテツの山に腰掛けて呼吸を整える。心臓が破裂しそうな勢いで鼓動を刻んでいる。剣を振り過ぎたせいで手に力が入らず、指先が震える。
「どうだ・・・? ラグナロク1本でやってやったぞ・・・」
通信を通して、コマンダーに言う。さすがにコマンダーもオレがやり遂げるとは思っていなかっただろう。
『・・・見事だ。正直途中で諦めると予測していた』
「お前な・・・。ったく、さっき自分で言っていただろ? オレには体を動かす才能があるって」
『そうだったな。しかし、理論値をも超える動きをするとは・・・。予想をはるかに上回る戦果だ。我々は、君の戦闘能力を過小評価していた』
「・・・珍しいな。お前がそんなに褒めるなんて。惑星マザーには槍の雨が降るのか?」
オレは上を見上げると、そこに雲もなければ空もない。あるのは星のみ。大気のない惑星マザーには、雲が無い為、雨が降る事もないのだが。
『槍ではなく、小惑星の雨なら降るが』
「マジで!?」
皮肉を言ってみたものの、衝撃の事実に驚かされる。そんな危険な惑星からはすぐおさらばするとしよう。オレは転送装置を起動して母艦に帰還する。
その後、コマンダーから改めて体の調査がしたいという申し出があり、手術室へと向かう。
前回のアダマンタイト投与の手術をしてから体に変化なんてないと思うけど――
手術室にはオレを待っていたコマンダーが2体のアンドロイドを連れて待っていた。コマンダーは無言のままアンドロイド命令したのか、オレの服を剥ぎ取る。そして手術台に寝かされる。
「今回は改造手術はなし?」
『なしだ。その手術に必要な情報を確認する為の調査だ』
「結局はするんかい・・・。オレ最終的に人間じゃなくなるんじゃないか?」
『人間の定義とはなんだ?』
人間の定義?
そう聞かれると、答えるのが難しい。生まれた時に人間という種である事だろうか。それならどれだけ改造手術を受けようと、オレは人間のままと言えるだろう。
ただ、脳以外がアダマンタイト、もしくはアンドロイドの様な機械の体となった場合、それは果たして人間と呼べるのだろうか? 改造人間? いや、人間って言葉がついているからそれもまた人間か。
考えてみても、その答えは分からなかった。
『答えられないなら、気にする必要はないという事だ。自身の種を疑問に思うことなど、時間の無駄でしかない』
「だな」
『・・・その無駄な行為をする事こそ、人間という種なのかもしれないが』
「確かに。お前からしたら、人間は非合理的な行動をする愚かな生き物なんだろうな」
話をしながら、コマンダーはオレの体をスキャンする。コマンダーの目から、扇状の光が現れて何度もオレの体を往復する。SF映画でよく見る奴だ。
その後、アンドロイドが服を着せてくれた。王様になった気分だが、機械相手とはいえ恥ずかしかった。
「で、何か分かったか?」
『おそらくだが、君の体は進化している』
「え? オレやっぱり人間じゃなくなるの?」
ユグドラシルの種が体内にあるから、芽が生えたら最終的に世界樹になるのだろうか?




