035.ディエス・イレ
早く魔剣ラグナロクの試し斬りをしたいと考えていると、警告音が鳴り響いた。
『ふむ。惑星マザーに害虫が接近している様だ』
いつもはオメガと呼んでいるくせに、惑星マザーに向かっている時だけ害虫呼びなんだな。感情がない様に振舞っているくせに、今はイラついているのが感じ取れた。
「早速試し斬りできるな」
『なます切りにしてやれ』
やっぱりかなり怒っている。料理しないくせによくそんな言葉を知っているなと感心しつつ、オレは出撃の準備をする。
そういえば、新たな中隊が編成されたという連絡もなければ、オレの扱いもどうなったのか聞かされていないのだが、どうなるのだろう。
軍事基地には戻らず、母艦から直接出撃する事になったオレは、更衣室で新しく支給されたスーツに着替える。マスクも付け、空気のない惑星マザーに備える。そして魔剣ラグナロク以外の武器はどこかと、ブレスレットの通信機能でコマンダーに問う。が、信じられない様な返事が返ってきた。
『早く転送装置で惑星マザーに行きたまえ』
「いや、ライフルは?」
『魔剣ラグナロクがあれば銃なんて不要だろう』
「は?」
通信が一方的に切られる。
あ、あの野郎、まさか剣1本で戦場に向かえと言っているのか!?
他に選択肢の無かったオレは、転送装置で惑星マザーに向かったのだった。
惑星マザーの地に着くと、既に数百人の兵士がいた。今回の作戦の参加人数はかなり少なめだ。というより、兵士の数がもう残り少ないのだろうか。防衛網を築いている兵士達の中に、アールヴの姿は見えない事から、予測されているオメガの数は少ないと察する。
「オレはどうすればいい?」
作戦内容が分からず、コマンダーに確認する。
『今回襲来するオメガの数は斥候型のみだ。数は五千。おそらく惑星マザーの地形調査だろう。数か月に一度ある恒例行事だ』
「あー、確かに前回もトウテツしかいなかったよな。それにしてもなんで地形調査なんかするんだ?」
『オメガの目的は惑星マザーの中心部にあるオリハルコンだと予想している。あれには銀河系を消し飛ばすだけの力がある』
え? オレが知っているオリハルコンと違う。もしオリハルコンで剣を作ったらエクスカリバーにしようと思っていたのに。そんな危険物質なら遠慮したい。
『君の役目は単騎で敵を殲滅する事だ。他の連中は君のバックアップが目的だ』
「・・・単騎?」
聞き間違えかと思い、聞き返す。
『単騎だ』
「単騎かぁ・・・」
今日が命日になりそうだ。そう考えるオレにコマンダーは最近地球で覚えたらしい言葉を放つ。
『グッドラック』
「黙れ」
『危険と感じたら転送装置を使いたまえ。運が良ければ助かるだろう』
「お前! 他人事だと思いやがって!」
『他人事ではない。これは大事な試作型アダマントソードの試験だ』
魔剣ラグナロクだ。そんなダサい名前じゃない。
とは言え今までの戦闘に比べたら、敵の数は少ない。それに、明らかに練度の低い兵士達を一瞥する。オレが戦わなければ、彼らの中から死傷者が出てしまう事だろう。
「ああ、もう! 分かったよ! やればいいんだろ! やれば!」
オレは後頭部をガシガシと掻きながら、コマンダーに言う。もう、誰かが死ぬのは見たくない。そんな決意を胸に、オレは彼らの間を通り抜けて、一人で卵型ポッドの着弾予想地点に向かう。
『希望があればBGMを用意する事も可能だ。人間はクラシック音楽を聴くと、心が安らぎ集中力が増すらしい』
「ひと様に気が遣えるなんて、嬉しくて涙が出てくるよ! それもこんな時にクラシック聞かせようとするなんて、いかれているとしか思えないね!」
『我々のおすすめは、シュトラウス二世の「春の声」だ。ストレス値が高くなっている様だから、心が落ち着く曲を選曲した』
春の声って言われても分からねぇよ! って思ったけどオレの意思を無視して流してくれたおかげで、なんの曲か分かった。出だしの何小節かしか知らないけど。そもそも草木が一本も生えていない惑星で春の声なんて聞こえてたまるか。あと機械が音楽や心について語るな。
「今の状況と全く合ってないだろ! 止めろ! もっと気分が高まる曲にしろよ」
『注文が多いな。ではモーツァルトのレクイエム「怒りの日」はどうだ。最近の曲では著作権の問題があるからな』
「地球外生命体が著作権気にするなよ・・・」
突っ込みを入れた直後、その『怒りの日』という曲が流れる。
でぃーえーすいっれ! ああ、これなら聞いた事がある。仕方ない、これで我慢するか。
曲が流れると同時に、高速で飛来する卵ポッドが視界に映る。数秒も立たない内に、それは地表に着弾した。卵の殻が割れ、中から大量のトウテツが現れ、こちらに向かって土煙を上げながら迫りくる。距離はおよそ2キロメートル。
出でよ、魔剣ラグナロク! そう念じると、ブレスレットが変形し、黒い剣と化す。か、カッコ良すぎる。出でよ、より顕現せよの方がいいかな?
刃が自身の足に当たらない様、剣を横に向けながらトウテツに向かって走る。接敵するまでの時間はおよそ十秒程度。距離が縮まるにつれ、改めてトウテツの多さに驚かされる。まるで津波だ。
オレは、その津波の様なトウテツの群れに、一人で突っ込む。
恐怖はない。あるのはただ、目の前の敵を倒さなければという使命感だけだった。




