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黎明を灯す光 ~神に至る道~  作者: Mr.Z


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027.兄の死

 陽気が気持ち良い春から、夏に変わる境目の7月頃。中学校での授業が終わり、私は帰宅する。


「ただいま」


 リビングにあるソファーに座っているママに言うが、おかえりの返事はない。最近のママは元気がない。食事もあまり摂らないせいでよく倒れては入院して、点滴を打っては退院を繰り返している。


 お兄が軍に召集されて3か月経つが、それでもまだ、ママの心は『あの日』に取り残されている。お兄がアンドロイドに連れていかれた『あの日』に。


 私も鮮明に覚えている。お兄の悲痛の叫び、パパの怒鳴り声、そしてママの泣き声。『あの日』私達家族は狂ってしまった。病人みたいに頬がこけ、うつろな目をしたママの痛々しい姿を見たくなくて、私はすぐに家を出た。


 仲の良い友達とカラオケに行く約束をしていたので、集合場所に向かい、入店する。


 私の親友の美奈と凛、そして美奈の彼氏である一輝と4人。最近はこのメンバーでいる事が多い。いや、3人は私の事情を知っているからか、なるべく一緒にいてくれる。カラオケに来たとはいえ、歌う気分にはなれないから飲み物を口にしながら3人の歌を聞いている。


 美奈はショートヘアが良く似合うかわいらしい子で、元気なムードメーカーだからか男子からも人気がある。けど美奈は一輝一筋。今は一輝とミスターブルーアップルを熱唱している。


 凛は、名前の通り凛とした雰囲気の子で、ロングヘア―がよく似合う。中学生でありながら、綺麗なモデルさんみたいな雰囲気を放っている。時々演歌を歌ったりと、変なところがあるけど優しくていつも一緒にいてくれる。


 一輝は・・・アホだけど真っすぐで、美奈に3回告白した勇者だ。元々運動部ではなかったけど、いつか来るかもしれない『あの日』に備えて、空手部に入部したのはつい最近のホットニュース。


 今はこうして4人で集まれているけど、来年は中学3年になるから、受験勉強で忙しくなって今日みたいに遊べる回数は減ってしまうかもしれない。いつまでもみんなと一緒にいたいのに・・・。


 歌わずに飲み物ばかり飲んでいたら、催してしまった。私はトイレで用をたし、手を洗う。その時に鏡に映った自分の姿が目に入る。


 痩せ細った自分の姿。セミロングの髪をポニーテール状に結んでいる。顔色は悪く、3か月前に比べると肉が落ちて、今はガリガリの不健康というのが一目で分かる。食を太くした方がいいのかもしれないけど、ごはんが喉を通らない時が多い。


 それ以外にも、お兄の死亡届がいつ届くか分からない恐怖でポストに物が入る音がすると、頭がパニックになる。ニュースで次々に届く死亡届が取り上げられたのを見た時のママが泣き叫んでいる姿を、今でも忘れられない。


 こんな状況でも働いて、一家を支えてくれているパパには感謝してもしきれない。私は家族全員が揃う日をただただ願っている。


 カラオケルームに戻ると、3人が一輝のスマホを見ていた。


「見てみろよ沙希。今香港がオメガに襲われてんだって。逃げ遅れた奴が動画配信してる」


 どこで見つけたのか、中国の良く分からない動画サイトで生配信されている動画を見ていたのだ。


 オメガなんて、いなくなればいいのに――


 そう思いながら、一緒にその動画を見てみる。


「え、嘘・・・」


 そこに映っていた光景に目を疑った。黒い虫みたいな化け物と戦っている人物を、私が見間違うはずがない。


「どうしたの沙希?」


 凛の声がするけど、私の頭の中は映像の事でいっぱいだった。


「映ってるの・・・お兄だ・・・」


「え!?」


 私の言葉で、3人は画面を凝視する。美奈と凛は、お兄を何度か見た事はあったけど気付かなかったみたいだ。だけど、私は一目で分かった。それが血の繋がった兄だという事に。


「一輝! その動画のURLサキサキに送ってあげて!」


「わ、分かった」


 美奈が一輝に言ってURLを送ってくれたおかがで、私は自分のスマホでその動画を見る事が出来た。


 ヒト二人分の高さがある化け物に、2本のナイフで戦っているお兄の姿が映る。そのナイフで化け物を何度も何度も切り刻む姿は、本当にお兄なのか疑ってしまう。顔はお兄なのに、動きは全く違う。


 違和感に疑問を抱くも私が心の中で頑張れと応援した瞬間、無情にも化け物の鎌みたいな腕がお兄の胸を貫く。


「あっ!?」

「そんな・・・」

「嘘・・・だろ・・・」


 3人はがその光景を目にし、口元を押さえる。私は頭が真っ白になる。胸を貫かれて動きが止まったお兄に、カメラがズームされる。はっきりと見えたその顔は、間違いなくお兄だった。


「お兄・・・」


 ズームされて良く見える様になったおかげで、化け物の腕が間違いなくお兄の胸、心臓に刺さっているという事実が見間違いではない事が分かってしまった。


「あぁ・・・」


 お兄の死を悟ってしまう。その瞬間、貧血の様に体から力が抜け、そのまま倒れそうになる。


「サキサキ! 大丈夫!?」


 美奈が受け止めてくれたおかげで、頭をぶつけたりする事はなかった。ただ、その動画の続きを見る勇気は私にはなかった。凛と一輝はそのまま動画を見続けていたけど、もうお兄の傷つく姿は見たくもない。それにこの動画をもしママが知ってしまったら、取り返しのつかない事になってしまう。


「す、スゲェ! 見ろよ! 沙希のお兄さんが勝ったぞ!」


 動画を見ていた一輝が叫ぶ。あんな状態から勝つなんて無理だ。一輝が励まそうと嘘を言ってくれたのだ。


「沙希見て! 本当にお兄さんが勝ったの!」


 続いて言う凛の言葉で、それが嘘ではない事を知る。私は勇気を出して、スマホで動画を見てみると、刺された胸から血を流しつつも、化け物を仕留めたお兄の背中が映っていた。その後、すぐに倒れてしまったが、光の中から現れた綺麗な青い髪をした女性がお兄を抱き上げて消える。


 もしかしたら生き残っているかもしれない――


 それから数日経っても、お兄の死亡届が送られてくる事はなかった。


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