243.誰が為に
30機程いた新型ソルジャーは半分程溶けてしまったが、残りの半分は改良型を危険視してすぐに距離を取っていた。脚を動かして虫みたいに移動するのではなく、脚を動かさずにローラーで移動する。そっちの方が整地された場所なら速いし、エネルギー効率も良いらしい。
「男の子っていくつになってもロボットが好きなのはなんでなのかしら・・・?」
まさかケイジがソルジャーの設計に関する才能があるなんて思ってもみなかった。そのおかげで軍の戦力はかなり増したけど。今だって高速で移動しつつ陣形を組み、後退しながら射撃して改良型を仕留めている。
自身を容易に破壊しうる存在が改良型だと判断し、早急に殲滅しようとしているのだろう。改良型に狙われ、火の玉を放たれるが道路の上を滑る様に移動しながら躱して射撃を続けていた。
「凄い。私も負けていられないわ」
このままだと私抜きでも改良型を殲滅してしまいそうだ。それだと意味がない。
私は槍を持ち、ソルジャーに釘付けになっている改良型を側面から奇襲する。高度100メートル程を保ちながら確実に1体ずつ一撃で命を奪っていく。これ以上高度を下げれば熱にやられてしまう。既に道路は燃えていない場所を探す方が難しい。
後で消火しなければならないが、人口湖の水量で足りるか心配だ。いざとなれば消火栓もあるけど――
「消火栓?」
――映画みたいに消火栓を破壊を破壊したら水が吹き出るのだろうか・・・。?
どれだけ効果があるかは分からないけど、改良型の気を引けるかもしれない。試しに歩道の脇にある黄色の消火栓に槍を当てて破壊してみると噴水の様に水が噴き出す。
噴き出した水は火の海に落ちると同時に蒸発してしまうが、辺りの気温は少し下がった気がする。とはいえ焼け石に水とはまさにこの事だ。だが目的は改良型の視線をそちらに向ける事。それは成功した。
吹き出る水に釘付けになっている改良型を槍で斬り裂き、突き刺す。元々武器を使った戦い方は私には向いていないと思っていたけど、手元に投げられるものが無い時の私の攻撃力はかなり低い。オメガを持ち上げ、その体を引き裂くにしてもかなりの力が必要だし、戦車型みたいにに大きくて固いオメガは倒せない。
そこでケイジに武器を使わないか提案されていざ使ってみたのだが、これがまあ使いやすかったというか戦いやすかったのだ。小さな力でオメガに致命傷を負わせられる。それは言い換えればより多くのオメガを倒せるという事。
最初から使っておけば良かった、と少しだけ後悔。そうすればもっと多くの戦果を挙げられた事だろう。今となってはこの槍なしでは戦う事を考えられない。
改良型を倒し、時折吐き出される火の玉を躱して戦い続けていると、漸く目に見えてその数が減ってきたのが感じられた。
「この調子なら――」
油断した訳ではない。調子に乗っていた訳でもない。ただ、些細なミスを犯した。改良型が放った火の玉を避けただけ。そして回避した後にその射線の先にクーナがいるのに気付いた。
「クーナッ!」
慌てて彼女の名前を呼びつつ、高速で飛んで火の玉よりも先に彼女の元へ駆け寄る。
「ミカエラ? ッ!?」
私の接近と同時に火の玉が迫っている事にも気が付いた様だが、既にその距離は眼前。回避は間に合わない。そうなると出来る事は防御だけ。
質量の無い炎をサイコキネシスで操る事は出来ない。だけど、今目の前にある火の玉は燃えている油だ。その油さえ掴めば止められるはず。
サイコキネシスでそれを試みると、簡単に成功した。つい先程も人工湖の水を持ち上げたのだ。液体を掴むのは然程難しくはない。ただ――
「うぐっ!」
その熱気までは抑えられない。火の玉を止めたはいいものの、加熱された空気に肺を焼かれる。実際には焼けていないけど、それ程熱を感じたのだ。バイザーを付けているおかげで顔は焼かれなかったけど、呼吸をする度に胸の中がひりつく痛みが走る。
「大丈夫かミカエラ!?」
クーナが私を抱き、調和魔法で木の足場を作ってソルジャーの方へと離脱する。
「ごめ、さい・・・」
ごめんんさいと言おうとしたが、声が出ないどころか息を吸う事すらままならない。
――こんな・・・こんな無様な姿を晒す事になるなんて・・・。
痛みではなくて、悔しさで涙が溢れてくる。一人ではまともに作戦をこなせない程に弱い自分に嫌気がさす。ケイジが怪我をする度に叱責していたクセにこの有り様だ。
――結局、私はケイジがいないと何も出来ないんだ・・・。
「肺をやられたか・・・母艦に戻って治療するんだ」
とクーナに提案されるけど、私は首を横に振る。ここで帰ってしまえばずっと足手まといのままだ。私はまだ、何も成し遂げていない。
「だが――」
引き留めようとしたクーナだが、突然空に視線を向けた。刹那、光が降ってきた。黄金に輝く無数の光。それは全てのオメガを包み込み、この世から消し去っていく。
――あぁ・・・結局私はまた助けられてしまった・・・。
そして舞い降りてくるのは最愛の人。いや、天使か神と呼ぶべきか。彼は私の前に立ち、そのまま何も言わずにキスしてきた。するとすぐに呼吸が楽になる。
「大丈夫?」
「・・・うん。ごめんなさい、時間稼ぎ一つ出来なくて・・・」
心の底から心配してくれる。それがひどく苦しい。私にそんな価値はないのに、と卑下してしまう自分が余計に醜く感じてしまう。けど、彼は微笑んで抱き締めてくれる。優しく包んでくれるその温もり。ずっとこうしていたいのに、私なんかには勿体ないからと拒絶すべきだという矛盾が私の心の中を駆け巡る。
「そんな事ないよ。改良型のせいでみんな苦戦してる。ホントだったらオレが何とかするからってカッコ付けたいところだけど、宇宙にいる新型に絶賛苦戦してる最中なんだよね・・・」
ケイジに苦戦すると言わせるその新型とは一体どの様な存在なのか、私には想像もできない。
「病み上がりのところ申し訳ないんだけどさ、ロシアで戦ってくれてる重装兵と一般兵がヤバそうだから助っ人に行ってくれる?」
「・・・分かったわ。今度こそやり切ってみせるわ」
「うん。でも無茶しないでね」
「ふふ。ケイジに言われるなんてね」
「あ、いや、その・・・」
自覚があるのか、慌てふためく。その姿は愛おしくて可愛らしい。彼といるだけで心が軽くなるのを感じる。
「じゃあ行ってくるわ」
「ケイジも気を付けるんだぞ」
「あぁ。二人も気を付けて」
私の、私達のケイジ。彼が頼ってくれるのだから、今度こそ己の役目を果たそう。




