242.改良型オメガ ヘルハウンド
全身が燃え盛っているトウテツ。自身を焼き殺す事なく、平然としているその様子から、あれが平常状態もしくは戦闘状態だと悟る。
歩く旅に火の付いた油が垂れているのか、下がアスファルトにも関わらず足跡が炎で燃えていた。おそらくだけど自身は炎に耐性があり、全身から可燃性の液体を出しているのかもしれない。非常に膨大なカロリーが必要となりそうな能力だけど、どれだけその状態を維持出来るのだろうか・・・。
「私と相性が悪そうなのが来たな・・・」
燃えているトウテツを見てクーナが嫌そうな顔をする。接近戦と植物による攻撃を得意とするクーナからしたら炎の塊という相手は戦いづらいだろう。そんな新型、いや改良型オメガがワラワラと出てくる。その数はおそらく数千体はいるだろう。
他にも普通のトウテツやベヒーモス、ゴライアスだけではなくヴォーティガンの姿もある。普段なら騎士団総出で当たる軍勢だ。それを二人とソルジャーだけで対処するとなると、非常に厳しい戦いになると改めて認識した。同時にケイジに信じて戦おうと言ったのは安易だったと後悔する。
とは言え戦わない訳にはいかない。あくまで私達の役目は時間稼ぎなのだ。無理に戦う必要はない。
「改良型は私とソルジャーに任せて。クーナはソルジャーが倒されない様に戦車型をお願い出来るかしら?」
「了解だ。いざとなれば水の精霊魔法を使うからいつでも呼んでくれ」
精霊魔法は詠唱が長いというデメリットがあるけど、対応しようと思えば出来るのだろう。きっと彼女であれば、一人でも何とかなるかもしれない。見捨てたりはしないけど、相変わらず頼りになる。
「じゃあ始めましょうか」
サイコキネシスで空を飛び、アダマンタイトの腕輪を変形させて槍の形状にする。ケイジとミスターコマンダーに造ってもらったのだ。かつてケイジが使っていたアダマンタイトの剣と同じ仕様のものを。
――ケイジは魔剣ラグナロクって呼んでいたから、私のは魔槍グングニルかゲイボルグといったところかな?
黒歴史をほじくり返すのは可哀想だけど、かつてのケイジとお揃い。騎士団の中で形状変化させるアダマンタイト製の武器を使っているのは私だけ、なんて優越感に浸りながら、その槍をサイコキネシスで操って改良型のトウテツに向けて飛ばす。
漆黒の槍が高速で飛翔し、改良型を貫く。生命力自体は普通のトウテツとそう変わらないのか、体に穴が空いて絶命した。
続いてソルジャーが改良型に発砲して仕留めていく。今のソルジャーに装備されている武装はイザベラが使っているバトルライフルと同じものだ。それを2丁身に付けている為、その火力は重装兵部隊と比べても劣らない。
こんなあっさりと倒せるなら、ただ燃えているだけであって普通のトウテツとそう変わらないのではないかと疑問を抱いた瞬間、その場にいた改良型の視線が一斉に宙に浮いている私の方へ向く。それと同時に口を大きく開け――
ボシュンッ――
車一台を包み込めるサイズの火の玉を吐き出した。数千体が同時にそのサイズの火の玉を吐き出した事によって、私の視界は一瞬で真っ赤に染まる。
「ッ!?」
慌てて高度を上げて回避。だけど連続で火の玉が吐き出されて回避行動を強いられる。火の玉の射程はおよそ300メートル。外れたものはそのまま重力に従って落下し、地面に着弾して辺りは火の海と化す。おそらく体内で作られている油を球体にして吐き出しているのだろう。だから真っすぐ飛ぶのではなくて落下していく。
なんて解析したところで、解決策は見付からない。それどころか地面は火の海と化してしまい、気温が一気に上昇する。
ソルジャーはその業火に飲み込まれてしまい、ボディが溶けて表面がドロドロになっている。
「クーナは大丈夫かしら・・・?」
彼女の心配をしたが、既にオメガの群れの中で暴れていた。改良型は同士討ちをしない様に気を付けているのか、クーナを標的にする事は無かった。このまま私が惹き付けておけば、彼女が危険な目に遭う事はないだろう。
ならば私のやる事は一つ。高度を下げ、火の玉を避けつつ湖の水をサイコキネシスで持ち上げ、それを改良型の群れの中に落とす。それを蒸発させようと火の玉が放たれる。だが、水に接触した瞬間に大量の水蒸気が発生する。遮られる改良型の視界。
私は火傷をしないように水蒸気から逃れつつ、槍を操って改良型を確実に一体ずつ仕留めていく。私のサイコキネシスの射程は長くなればなる程威力が下がってしまう。クララちゃんみたいに遠くからの攻撃はあまり得意ではない為、ある程度接近して攻撃する必要がある。
つまり火の玉の射程外の高度から一方的に倒すのは難しいという事だ。逆にそんな位置にいればクーナが標的にされてしまう。だからある程度私に視線を釘付けにしておかなければならない。
「でも無理は禁物」
ケイジが来てくれるまでの時間稼ぎさえすればいいのだから。安全第一で戦おうと改めて考えたその時、辺りが突然真っ暗になった。
つい先程まで晴れていたはずの空が急に真っ暗になったのだ。視線を上に向けて何があったのか確認すると、巨大な影が太陽を遮っていたのだ。
「クイーン・・・」
ケイジが既に2体討伐しているその存在。地球を包み込めるサイズを誇るその巨躯が太陽を遮ったせいで、辺りが暗くなったのだ。破壊神が地球を塵にしようと顕現したのではと錯覚してしまうが、その影は一瞬でバラバラになったかと思えば、光の粒子となって消滅した。
昼が夜になったかと思えば、また昼に戻る。そんな摩訶不思議な経験をするとは思ってもみなかった。
――ケイジも戦っているんだ。私も頑張らないと。
かつてはただの男の子だったケイジは、今となっては神の化身と言える存在に成り上がっている。たかが大統領の娘という私では釣り合わない程の頂き。彼に相応しい女と言われるぐらいの功績を上げなければ。彼の優しさに甘んじてばかりいてはいけない。
そんな事をする必要はないと彼は言うだろう。だけど、これは私の意地なのだ。ただ守られているだけのか弱い女性で居続けるつもりは無い。
「クーナ。作戦変更よ」
『ん?』
通信機越しでも彼女が首を傾げているのが分かる。
「ケイジが来る前に全部倒すわ」
『ふっ。その言葉を待っていた』
私達だってケイジがいなくても戦えるんだから。




