241.アメリカ防衛作戦
ケイジと別れた私とクーナは、道路上で横一列に展開しているソルジャーを眺めていた。場所はラスベガス。もしかしたらオメガもカジノをしに来たのかもしれない。
なんて下らない事を考えながら、ベラージオホテルを背にしてオメガの襲来を待つ。
「ここは何の建物なんだ?」
「ホテル兼カジノよ」
「カジノ?」
「お金を賭けてゲームをするの。勝ってお金持ちになる人もいれば、財産を失う人もいるわ」
「・・・理解が出来ないな」
どうやら賭け事が好きじゃないらしく、クーナはしかめっ面で人口湖を眺めていた。ケイジもあまり賭け事に興味がない。私はポーカーやブラックジャックといったゲームは好きだけど、賭けそのものに興味はない。
「私達の中ならイザベラぐらいしか興味ないんじゃないかしら?」
「いや、こういうのは意外とアンジェリカやケイシーがハマりそうだ」
「・・・確かにそうね」
一度大勝ちして、調子に乗った挙句惨敗する光景が目に浮かんだ。逆にイザベラは慎重に勝ち続けるイメージが湧いた。勝手なイメージだけどポーカーが強そう。意外とイザベラは周りをよく見ているし、表情から思考を読み取るのが得意だ。間違いなく良いお母さんになるだろう。
「夜だったら噴水とライトを使ったショーが見られたのに」
「オメガとの戦いが終わったら、皆で来たいものだ」
みんなでずっと海外旅行をするというのも楽しそうだ。行き当たりばったりの旅。もし宿が取れなかったら母艦に転送して部屋で寝ればいい。お金だって山ほどある。前線で危険に晒されている私達には多額の手当が支給されているのだから。
それに折角命懸けで守った地球を見て回らないのは勿体ない。戦争さえ終われば、時間はいくらでもあるのだから。
「それにしても、新型ソルジャーは随分と物々しいな」
ケイジとコマンダーが協力して製作した新型ソルジャー。今まで二足歩行だったものを四足歩行にし、主砲をより強力なものにしてあると聞いた。射撃による衝撃を緩衝する為の機構を搭載しつつ、脚からアンカーを撃つ事によってボディを固定したり垂直の壁すら登れるらしい。
犬みたいな形ではなく、四本の脚は正方形を描く様に等間隔のものとなっている。そしてその中央に体があり、両肩から飛び出ている砲塔が下顎に見えるせいで虫を彷彿とさせるが、今までのソルジャーに比べて戦闘力はかなり増している。
マザーやガーディアンが人に近い形をしていた事もあり、四足歩行型のソルジャーを製作するのは初めてらしい。前にも言っていたけど、オートマタは戦闘に特化した兵器を造るのが意外と苦手だ。技術力は人間を遥かに上回るけど、戦いを好まない傾向があるから。
「そうね。ただ頼りになるからいいじゃない。犠牲を出さずに済むならそれに越した事はないわ」
「そうだな」
今まで多くの犠牲を出してきたのは人間だけではなくアールヴもだ。だからこそ、クーナも犠牲を出したくないという気持ちは同じはず。なんて考えていたら、食い気味に湖を見つめるクーナ。
「ミカエラ、これって泳いでもいいのか?」
「ふふ。ダメよ」
気持ちは同じ・・・はず。
そんな下らない事を考えているとポッドの落下を確認した。落下地点は予測ポイントとの誤差は無し。新型がいる可能性はあるけど、私達のやる事は最初から決まっている。
「さあ、ケイジの期待に応えるとするか」
「無茶はしないでね? ケイジったら、怪我したらすぐ泣いちゃって大変なんだから」
「最近はかすり傷一つで慌てふためくからな・・・。力を得て慢心せずに責任感を抱くのは良い事だけど、自分のせいだと自責してしまうのがな」
心配してくれるのはありがたいけど、か弱い小娘だと思われるのは・・・いや、そんな風には思っていないだろうけど、もっと信頼してくれてもいいとは感じてしまう。ケイジ自身、今まで数え切れない程死に掛けたり大怪我をしている為、オメガの恐ろしさは誰よりも理解している。それを考えてしまうと怒るに怒れないのだけれど、少しだけ寂しい気持ちになってしまうのは私だけではないはず。
「そこがケイジの良いところじゃない」
「・・・そうだな。それに慌てているケイジは可愛いからな」
「ふふ。確かにそうね」
飼い主を見失ってあたふたしている小型犬みたいなその姿は非常に愛くるしい。ずっと一緒にいても飽きないのはケイジのそういうところのおかげだろう。
「って、オメガが来ているのにケイジの話ばかりしている場合じゃないわ」
「おっと、つい話が弾んでしまったな」
気を取り直して、私達は戦闘態勢に入る。二人だけで戦場に出るのは私が初めて戦場に出た時以来だ。あの時は因子を結合した事も、姿を隠して私だという事も秘密にしたまま戦ったんだっけ?
――懐かしい・・・。
「ねぇクーナ」
「なんだ?」
「今夜は久しぶりに・・・二人でシない?」
「・・・そういえば今夜は予定が入っていたな」
「なら明日でもいいわ」
「いや、明日も予定があった様な気が・・・」
のらりくらりと避けようとするクーナだけど、私達の夜の予定なんてケイジとイチャイチャする事だけ。どうせベッドの上で彼と愛し合うなら、私はそのついででいい。どうせ逃げられないのだから・・・。
なんて胸を弾ませていると、落下した卵型ポッドの中から無数のトウテツが現れる。ただ、いつもと同じ光景ではなかった。それはいつもより数が多いという理由だけではない。その身が炎に包まれていたのだ。
『改良種』。その言葉がふと脳裏を過った。きっと、今回の戦いは今までの中で一番苦戦を強いられるかもしれない。そんなネガティブな考えが胸の中で反芻した。




