240.総力戦
半年以上オメガの襲撃が来ず、人類の気が緩んできた時にその気配を察知した。遅れて警報が鳴り響く。
「凄い数だな」
察知した数だけでも百万以上。真正面から全戦力をぶつけてくる戦い方は初めて。最後のクイーンというだけあって小細工はしてこなかった様だ。
「今日は忙しくなりそうだな」
「ちっ。良いところなのに」
自室でイザベラにマッサージしていた最中に下された出撃命令。彼女からしたら疲れを癒す為の行為の最中だというのに、それを中断して戦いに行かなければならないのだから不服だろう。別に腰を痛めているとかではない。ただオレの気が向いたから始めただけだったが、開始10分でこんな事になるとは思ってもみなかった。
不機嫌な表情で輸送船の元まで移動する。これは、今夜は荒れそうだ。イザベラっていうか誰か一人が張り切るとみんなも乗り気になって収集が付かなくなるから大変なんだよな・・・。
今日は寝られないと覚悟するしかない。みんなが装備を身に纏い、転送室で待機する。行き先はまだ決まっていないから動けないのだ。
「コマンダー、どこが襲撃されそうだ? クラーケンだけでも10体以上いるぞ?」
『襲撃予測地点は・・・地球全体だ』
おう・・・。前にオレが想像した通りの事態になりそうだ。それに加えてクイーンと、クイーン程ではないが巨大なオメガの気配も多数感じられる。新型ばかりだ。
『現状だと襲撃地点はアメリカ、ドイツ、オーストラリア、中国、ロシア。それと日本だな』
7か国同時襲撃。プラスでクイーンの襲撃と新型の巨大オメガを宇宙で食い止めなければならない状況。オレがそっちに行くとして、他をどうするか・・・。
一般兵とマキナ達も全員出撃させるとすると、戦力を平均的に分散させるべきか、どこかを集中的に守るべきか考えどころだ。先進国ばかりだし、人口も多い。どこも後回しにすべきではないだろう。
となると全てを同時に防衛しなければならない。ただ、戦力を分散すればそれだけリスクを伴ってしまう。もし新型が潜んでいたら誰かを失ってしまうかもしれないと考えると、安易に戦力は分けられない。
「どうしたものか・・・」
パッと思い付いたのはアメリカをミカエラとクーナ、ドイツをルカとクララ、オーストラリアをヴァルキリー部隊、中国をイザベラとメイシャ、ロシアを重装兵と一般兵、日本はデウスエクス部隊と考えたが、オメガの数は百万以上。各国に襲撃するのは少なくても十万以上。それを二人で押さえるなんて無理だ。
ソルジャーを出したところで焼け石に水だろう。一般兵を分けてしまえばロシアの防衛がままならなくなる。
考えがまとまらず、熟考していたらミカエラがふとオレの手を握ってきた。彼女に視線を向けると、微笑んでいた。
「心配しないでケイジ。殲滅じゃなくて足止めだけなら少人数でも問題ないわ」
「でも――」
「だから、早く助けに来てね?」
――・・・ああ、そうか。何もみんなが敵を殲滅する必要はない。住民が避難するまでの時間稼ぎさえしてくれれば、オレが後から殲滅すればいいだけの話。
オレを信頼してくれているみんな。オレも同じ様に信頼しなければ。それに、彼女達は強い。もしかしたらオレが着くよりも前にオメガを殲滅している可能性だってある程に。
「・・・分かった。みんなは襲撃される全ての国でオメガの足止めを。絶対に無理したり深追いしたりしない事」
「ケイジがそれを言うのか?」
みんなを心配して言ったつもりが、クーナに言い返される。
「一番無茶する坊やに言われるとはねぇ」
「その通りであります! ケイちゃんが一番無茶するくせに、自分で言うなであります!」
「そうッスよ! 心臓が跳ねて痛くなるのはコリゴリッス!」
心臓が痛くなる程心配させてきた手前、何も言い返せない。オレはただ体を縮めてすみませんと連呼する事しか出来なかった。
「み、みなさん、ケイジ様が可哀そうなのでそこまでにして下さい」
「ご主人様が借りてきた猫に・・・可愛い」
メイシャが助け船を出してくれるが、メアリーはオレを見て身もだえているだけだった。酷い・・・。
「私達はケイジを信じてる。だからケイジも私達を信じて」
「ああ。すぐに終わらせてみんなの元に戻るよ」
出し惜しみは一切せずに最初から本気を出す。そしてみんなを守る。それがオレに出来る事だ。
方針が決まったと思ったその時、通信機が起動する。
『心配するな。新型ソルジャーを用意してある。誰も死なせはしない』
・・・そうだ。コマンダーと一緒に造った新型のソルジャーだってあるんだ。あれも全て戦場に送り込めば犠牲をゼロに出来るかもしれない。全ての戦力を温存せずにぶつける。まさに――
「総力戦だな。だけど、誰も死なせるつもりはない」
死ぬのはオメガだけで十分だ。みんなは死なせない。絶対に、何があっても・・・。
「行こう。これが最後の戦いになるかもしれない」
「えぇ。みんなで生きて帰りましょ」
ミカエラの手を強く握り、オレ達は出撃した。これが最後の戦いになると信じて――




