234.重婚
クイーンを討伐して月防衛作戦終了後、自室に戻ったらみんな起きていた。何をしていたかと言えば、まあベッドの掃除だ。毎朝のルーチンワーク、というかやらないと部屋の匂いが酷い事になる。何故かは言わなくても分かるだろう。
「おはよ。どこ行ってたの?」
「おはよう。ちょっとコマンダーのところに行ってたんだ」
ミカエラにそう応えるが、朝一からクイーンとサタンの相手をしていたなんて知られれば怒られるのは目に見えている。別に悪い事をしていた訳ではないけど、わざわざ心配を掛ける事を言う必要はない。
オレも手伝おうかと思ったが、既にシーツを洗濯機に入れるだけで終わる。少しばかり遅かった様だと思っていたら、ミカエラがふとオレの襟元に触れる。
「・・・ケイジ、これは何?」
とミカエラの指先にあったのはクイーンのものと思わしき肉片。それを見た瞬間、どっと冷や汗が吹き出た気がした。この体は汗なんてかかないから気がしただけ。
「えっと・・・何かのお肉・・・?」
「おバカ!」
「うっ」
腰を手に当てて大きな声で、しかも初めてミカエラにバカと言われた。それもただの「バカ」ではなくて「おバカ」だ。その仕草と言い方が可愛いと思ったのは秘密。
「また一人で無茶したんでしょ!」
「無茶はしてないよ・・・?」
「今のあなたが返り血を浴びるどころかこんなのが付いたのにも気付かないなんて普通の相手じゃあり得ないでしょ!?」
「ごもっともです・・・。でも怪我はしてないから」
「本当?」
「ホントだよ。だから安心して」
ここまでのやり取りを経て、ようやく安心するミカエラ。それだけ心労が重なる思いを、今まで彼女にさせてきたのだ。最近は落ち着いたかと思っていたが、それも傲慢な考えだった。オレが不安にさせる度、ミカエラの心は傷付き、病んでいく。
オレがもっと上手く立ち回れればいいんだけど、それ程器用でも要領が良い訳でもない。自分の不甲斐なさを情けなく思っていると、誰かが首に腕を回してきた。
「またやらかしたのかい? 坊やも懲りないねぇ」
「いや、やらかしては――」
「こりゃお仕置きが必要だね。反省しな」
朝っぱらだと言うのに、イザベラにベッドに押し倒される。まだ新しいベッドシーツにしたばかりなのに。
「い、嫌だ! お仕置きしたいだけだろ!」
「駄目だ。ほら、お前達も手伝いな」
「いいわね。ほらクーナ、ケイジを押さえて」
「うむ」
「た、助けて!」
助けを求めても誰も動こうとしない。それどころか魔の手をオレに差し出してくる。悪魔の様な笑みを浮かべて。
その日はひたすら男としての尊厳を打ち壊され続けた。みんなが幸せならオレの尊厳なんていくらでも差し出すさ。・・・グスッ。
後日、オレはホワイトハウスの執務室でガブリエル大統領とその秘書と、次の演説やら記者会見の準備をしていた。3体の内の2体、クイーンの討伐に成功した軍の功績を発表する為だ。
「さてこの件は君の口から発表してもらおうと思うのだが、どうだろうか?」
「オレが人前で話すの嫌だって何回も言っているじゃないですか」
「ミカエラと結婚する以上、君が表舞台に立つ機会は増える。諦めたまえ息子よ」
「はい、お義父さん・・・」
「それともクーナ嬢と結婚するつもりか?」
「それは・・・」
結婚・・・オレは誰と結婚すればいいのだろうか? それとも結婚しないままでいる方が・・・いや、女の子なら誰しも結婚式に憧れを持つはずだ。聞いた事はないけど、みんなも結婚したいと思っている。・・・はず。
一人としか出来ない現状、取れる行動は少ない。まずは誰か一人と結婚する。ただ、これはなるべく回避したい。誰かを特別扱いしたり、蔑ろにしたりする真似はしたくない。
他にも誰とも結婚しないというのもあるが、これは先程の通り論外だ。それにみんなのウェディングドレス姿を見たい。あわよくばそのままエッチしたい。今のオレの財力ならレンタルじゃなくて購入できる。なら多少汚れても問題ない。正しいお金の使い方だ。
なら他に方法はないのかと言えば、可能性は低いが存在する。
「ガブリエル大統領」
「お義父さんだ」
「・・・お義父さん」
「なんだ息子よ」
この流れホント好きだよな・・・。
「一つ、我が儘を言ってもいいですか?」
「・・・いいさ、いいとも! 君の我が儘なんて珍しいからな! 何でも言ってみたまえ!」
オレは一息ついてから望みを口にする。
「軍に所属し、階級が一定以上になった者に限り、重婚を認める法律を作って下さい」
みんなと幸せになる方法。それは――『法』そのものを変える事だ。
難しいかもしれないが、連合の権力があれば出来るだろう。階級という制約を設ければ受け入られるはずだ。職権の乱用だし、褒められた事ではないかもしれない。
だけど、オレはみんなを幸せにしたいのだ。その為ならば手段は問わない。権力も財力も、使えるものは全て使う。様々な国を、地球を、世界を幾度となく救ってきたのだ。少しぐらい、我が儘を言ってもいいじゃないか。
誰かを不幸にする訳じゃないのだから――
「・・・志願兵も増えるかもしれないし、悪くないアイディアだ。それに――全てが欲しいのだろう?」
サタンもビックリな悪魔みたいな笑顔を向けてくるガブリエル大統領。全部を見透かされている様だ。
「いいじゃないか。私の息子になるのであれば、それだけ強欲でなければ」
この時、もしかしたらオレは悪魔と契約をしてしまったのかもしれない。けど後悔はしていない。
それから2か月で、オレの案は通った。同時に軍に志願した者が数百人いた事からそれなりの効果があったが、そもそも相手がいなければ重婚なんて出来ないし、設けた制約の中身として『少尉』以上でなければ重婚出来ない。
クイーンが残り1体となった手前、今更志願しても少尉に上がるのは難しいだろう。つまり、これはオレを含めたごく一部の人の為だけに定められた法律でもある。
――これで、みんなを幸せに出来る。
ただ、ガブリエル大統領の息子になるのも確定していまった訳でもあるけど、後悔する程の問題じゃない。・・・多分。




