233.月面侵食
クイーン討伐後、オレは何か企てていないか確認する為、辺りを調べると、思わぬものを見付けてしまった。
「あぁ・・・これを隠したかったんだな?」
月面、というか地球から見たら月の裏側というべきか。そこにいたのは新型の黒いオメガ。ドロドロのスライムというか、ヘドロというかナメクジみたいなヤツが月面を這いずり回っている。動いた軌跡の通りにヘドロの様なものを撒き散らしており、月面を黒く汚している。
こんなドロドロしたオメガは初めて見る。正直気持ち悪いし、それが何百といるとなると鳥肌が立ってしまいそうになる。・・・この体は鳥肌なんて立たないけど。
近付きたくないからアイン・ソフ・オウルで倒してしまおうかと思ったその時、コマンダーから通信が入る。
『あれは・・・原生種か?』
「げんせいしゅ?」
『オメガは他の生物を取り込む事で短期間で進化出来る。だが、初めて惑星マザーに来たオメガは、取り込むべき他の生物がおらず、あの様な見た目をしていた』
「へぇ」
その後にアールヴヘイムで他の生物を取り込んでトウテツやゴライアスが生まれたって事か。となるとクイーンも元々は今の姿ではなかったのかもしれない。今となってはどうでもいい話だけど。
今大事なのは、その原生種と呼ばれるスライムだかナメクジが、何故月にいるのかという事。その体液で月を汚すのが目的なのかもしれない。月が黒くなってしまうと、月明かりに照らされていた夜が暗闇になってしまう。
それぐらいしか被害はないかもしれないが、とりあえず駆除するに越した事はない。
「倒していいよな?」
『問題ない』
「なら――光よ、貫け!」
プチ・アイン・ソフ・オウル、ってな。オレの背後に現れた黄金の魔方陣から光の矢が放たれ、原生種を殲滅する。これで月防衛戦は終わりかと思ったが、先程原生種に汚された月面に異変が生じていた。体液が月を溶かしていたのだ。
「なあ、あの黒い体液がかなり深くまで沁み込んでるんだけど」
『こちらでも見ている。あの体液は全ての物質の組織を崩壊させる。あれのせいで惑星マザーの物資が枯渇したのだ』
「ほぉん。金属も脆くするのか?」
『アダマンタイトとオリハルコン以外の物質全てが対象だ。戦場に出撃したソルジャーが使い物にならなくなってしまった時の事は鮮明に覚えている。それに綺麗に整地していた地表を穴だらけにもされた恨みは忘れない』
確かに、惑星マザーの地表はお世辞にも綺麗とは言えなかった。それがこの原生種のせいだと考えると、トウテツ以上に厄介な存在だと言える。
『当時の原生種よりも、その体液の量が増えているな。新型というよりは改良種、というべきか。ふむ、初めての試みだな。』
「おい、そんな事より・・・月大丈夫か?」
今の話を聞いていたら、今回のクイーンの目的は月の破壊だとなる。その改良種を月面に送り込む為に、クイーンが自ら時間稼ぎに来たとしたら、非常にマズい事態な気がする。
『早急に除去しなければ取返しのつかない事になる』
「もっと早く言えよ!」
呑気なコマンダーに対し、オレは焦って月を崩壊させようとする体液をサイコキネシスで除去する。が、かなり深くまで浸透しているらしく、地表を削っても更にその下が黒く染まっていた。
「ああ、もう!」
月を破壊すれば地球が大変な事になるのを理解してやった行動なのかは分からないが、面倒な事をしてくれたのものだ。月面を削りに削り、体液がしみ込んだ部分を除去していると、背後からオメガの気配がした。
クイーンは既に絶命している中、他にどのオメガがいるのかと思えば、一度だけ対面した事のあるヤツがいた。
「サタンかよ・・・」
オレをバラバラにした挙句、穴の中に放り捨てた過去があるオメガ、『サタン』がそこにいた。それも4体。4方向からオレを囲む様に飛ぶその姿は、まさに悪魔と天使の抗争みたいだ。
月面の掃除が終わっていない中、あの4体の相手をするのは難しくはないものの、非常に面倒だ。とは言え、他の誰かに手伝ってもらう事は叶わない。無重力下での戦闘なんて誰にも経験がないからだ。
もちろん、月の重力はあるけど、そんなもの地球と比べたらないに等しい。確か地球の6分の1程度の重力だっけ? 少しジャンプしただけでもかなり飛んでしまう。サイコキネシスで空を飛べるミカエラなら戦えない事もないが、それでもいつもとは違う感覚で強敵のサタンと戦うのは厳しいだろう。
「面倒くさいなぁ・・・」
セフィロトを胸にしまい、左手で月面の掃除をしつつ、右手の指をパチンと鳴らす。そしてオレはテレポートで少し離れた位置に移動。視界に月とサタンを捉えつつ、掃除を続ける。
その間サタン達が何をしているかというと、4体で殺し合いをしていた。先程指を鳴らした時に、ベルゼバブの『洗脳』の力を使って幻覚を見せているのだ。お互いがオレに見える様に。
洗脳して支配するのはおそらく出来ない事もないだろうが、知性の高いサタンが相手だと洗脳が解除される可能性がある。だから幻覚を見せて同士討ちを仕向けたのだ。大群相手にこんな真似をするのは大変だけど、4体ぐらいなら問題ない。
そのまま掃除を終わらせる頃にはサタンも残り1体になっていた。それも満身創痍の状態で。その1体も不意打ちで倒し、死骸をコマンダーに渡してミッションコンプリート。
数が少ないサタンのサンプルを受け取ったコマンダーは嬉しそうだったが、いつもとは路線の違う襲撃方法に、オレは不安を感じていた。今後は直接的な襲撃だけではなく、こういった策略を用いた戦闘をしてくるかもしれない。
愛しているみんなは何としてでも守ってみせる。ただ――他の人間を全て救えるかは分からない。




