231.呼び方
とある日。部屋で全員集合したオレ達はベッドの上で膝枕や腕枕をしたり、されたりしながらのんびりと過ごしていた。
「ねえ、今オレのお腹吸ってるの誰?」
「ん~・・・?」
オレの服をめくってお腹の肉を吸っている犯人はアニーだった。寝ながら吸っているその姿は完全に赤ちゃんだ。
「すぐに引き剥がします」
とメアリーがアニーを持ち上げ、引き剥がそうとするも、寝ているにも関わらず抵抗するアニー。オレの腰に腕を回してがっしりとホールドしている。
「天使様に迷惑を掛けるなんて、許しません!」
「んーッ・・・!」
が、抵抗もむなしく引き剥がされたアニーは不機嫌そうな寝顔をしつつ、離れた位置に寝かされる。
――寝てるん、だよな・・・?
こんな表情豊かな寝顔をしている人を、オレはアニーしか知らない。
「ありがとうメアリー」
「当然の事をしたまでです」
「それと今更だけどさ、メアリーってミカエラの事も天使って呼んでなかったっけ?」
前はオレの事を騎士様と呼んでおり、今は天使様と呼んでいる。ただ、ミカエラの事も天使様って呼んでいたはず。
「そ、それは確かにそうですが・・・でしたら今後は神様とお呼びします!」
「いや、普通に名前で呼んでよ」
流石に神様って呼ばれるのはどうだろうか? 他の人に聞かれた時にどう反応したらいいかオレ分からないよ。
それに恋仲になっているというのに、名前を一度も呼ばれた事がないというのは寂しくもある。
「わ、私なんかが神様の御名を口にするなど、おこがましい真似出来ません」
もう神呼びになってるし。それにオレの事崇拝するのは百歩譲っていいとして、ちょっと壁があるのはな・・・。
「そっか・・・メアリーはオレの事名前で呼んでくれないのか・・・。寂しいな~」
なんてわざとらしく言ってみると、メアリーがあたふたと慌てる。冷静沈着な彼女が慌てる姿は珍しい。こういう普段見せない姿が見れるとゾクゾクと嗜虐心がくすぐられる。ミカエラに影響されたのかな・・・。
「あ、その、私なんかが――」
「なんかじゃないよ。メアリーに呼んで欲しいんだ。今の呼び方だと距離感があって、主従関係みたいじゃん」
「はっ!? それでしたら今後はご主人様とお呼びします!」
――違う、そうじゃない。
もし尻尾が生えていたらブンブンと左右に振っていそうな笑顔で言うメアリー。その無邪気な顔は、まるで褒めてと言って欲しい子犬にしか見えない。
「却下」
「何故に!?」
「何故じゃありません。全く、普通に名前で呼んでくれればいいから。ほら?」
「そ、その・・・それでは失礼して――」
頑なに抵抗していたメアリーが折れた。それに対して、みんなは静かに耳を傾ける。
「ケ、ケ――」
――そのまま続けて言うんだ!
「ケケケケケケケケイケケケケイケケイケケケ――」
「ホラー映画かよ!」
噛み過ぎてテケテケの鳴き声みたいな声を出すメアリーに突っ込んでしまった。彼女自身も脳がショートしたらしく、顔を真っ赤にして目を回していた。これは時間を掛けて何とかしないとダメだな。荒療治をしたらどうなってしまうか想像もつかない。
「ハハハ。メアリーがバグったッス」
糸が切れた人形みたいにへたり込んだ彼女を見て笑うケイシー。そういえばケイシーもオレの事をさん付けで呼んでたよな。
「じゃあ次はケイシー。オレの事呼び捨てで呼んでみて」
「じ、自分に飛び火したッス!?」
「ほらほら」
「そ、その・・・ケケケケ、ケイちゃん・・・」
お? アニーと同じ呼び方。別に悪くないし、良いと思う。
「いいね。オレもケイシーの事ケイちゃんって呼ぼうか?」
「そ、それは嫌ッス」
それは嫌なんだ。ケイジとケイシーって名前似てるからお互いに同じ呼び方になってしまっても仕方ないとは思うけど、本人が嫌ならやめておこう。
「じゃあ、頑張ったご褒美にギューしてあげる」
寝転がっていたオレは起き上がり、ケイシーの手を引いて抱き寄せは強めに抱き締める。
「ニヘヘ」
「あ、ズルいであります! 私もケイジ殿にギューされたいであります!」
だらしない笑みを浮かべるケイシーに嫉妬したアンジェが割り込もうとするが、ケイシーが抵抗する。
「だったらアンジーもケイちゃんの呼び方を変えるッス! サムライやショーグンじゃないのに殿なんて呼ぶのは変ッス!」
「飛び火したであります!?」
確かに、ケイシーの言う事にも一理ある。日本に憧れているとはいえ、殿呼びは如何だろうか。もう慣れてしまった自分がいるのも事実だけど。
「まあ、アンジェは・・・そのままでもいいかな?」
「何故でありますか!? 私もケイちゃんやダーリンって呼びたいであります!」
「ダーリンは・・・ちょっと馴染みがないから嫌かな・・・」
ハニーとかベイビーって呼ぶのも、日本人からしたらちょっと恥ずかしい。あ、元日本人だった。
「なら・・・ケイちゃんって呼んでいいでありますか?」
「いいよ。ほら、おいで」
ケイシーを片腕で抱き締めたまま、反対の腕を広げてアンジェを迎え入れる。
「はい、ギュー」
「ギューであります!」
と二人を抱き締めていると、不意に背後から気配を感じた。視線を向けてみると、そこにはクーナさんが。
「ケイジも私をさん付けでかつ敬語で話しているが、それはいつやめるんだ?」
「と、飛び火した!?」
確かにオレもクーナさんに対しては丁寧に接している。けどそれは、壁があるとかじゃなくて、何度も命を救われて頼りにしているのと、オレが対等な存在になるまではそうしようと決めていたからだ。
――今なら、彼女と肩を並べても恥ずかしくないぐらい、成長できたかな?
「ほらほら~。私を呼び捨てで呼んでみるんだ」
「くっ」
さっきまで同じ事をメアリーとケイシー、そしてアンジェにしていた手前、引き下がる訳にはいかない。
「じゃあ、クーナ・・・さん」
「コラ」
クーナさんの「コラ」が可愛すぎて死にそう。
「も、もう一回! ク、クー・・・クククククククク」
「わ。悪代官が笑っているみたいであります」
やめろアンジェ。こっちだって真面目にやっているんだから。
「ク、ク・・・クーナ」
「うむ。良い感じだ」
後ろからオレを抱き締めて頭を撫でてくる。多分、オレがケイシーとアンジェにやったのを真似したのだろう。嬉しいけど、ちょっと子ども扱いされている気がする。
まあ、年長さんのクーナさん、じゃなくてクーナからしたら、オレ達はみんな子供みたいな年齢だけどさ。
「・・・今失礼な事を考えたな」
抱き締めていたはずの腕が、気が付いたら首に回されて締められる。
「してないしてない!」
「嘘つきにはお仕置きだ」
――なんでバレたの!?
これがオレ達の休日の過ごし方の一つ。何気ないお喋りやスキンシップをするだけでも、十分に幸せを感じられる。こんな日々がずっと続けばいいと、心の底から思う。
だからオレは戦い続ける。彼女達の為にも――




